凸凹親子のほんわかコメディ〜『人生はノー・リターン〜僕とオカン、涙の3000マイル』

■人生はノー・リターン〜僕とオカン、涙の3000マイル (監督:アン・フレッチャー 2012年アメリカ映画)


愛情ってぇのは多すぎても鬱陶しくなるし少なすぎると寂しいもんだし、程々がイイっちゃあイイのだろうけれども、そんな程々が簡単に分かるんなら誰も苦労しない。こんなに大切に思ってるんだから、っていうのは伝えたいけど、自分は大切に思われてる、っていうのは分かるんだけど、押しつけがましくなってしまうとなんだかそっぽを向かれてしまうし、そっぽを向きたくなる。特に親子関係は感情の加減が親子でちぐはぐで、愛情関係のはずがいつのまにか愛憎関係になってしまっちゃう。でもお互い、ホントは好んで仲悪くしたいと思ってるわけでもないのでムズカシイ。
『人生はノー・リターン』は、そんな微妙な親子のやりとりを描いたコメディ映画だ。主人公アンディ(セス・ローゲン)は母子家庭で育った青年で、四六時中メール攻勢してくる心配性の母親を持ってうんざりしている。しかもアンディ、自ら発明した洗剤をあちこちにプレゼンするんだけど、まるで相手にしてもらえずしょんぼりな毎日。しかしそんな母の大昔の恋人がまだ独身で、3000マイル先の土地で生活していると知ったアンディは、こっそりその元恋人と引き合わせるため、母親と3000マイルの旅に出る、といった物語だ。
愛情過多でなにかと世話を焼きたがり、始終ぺちゃくちゃとどうでもいいことばかり喋りまくり、そしてしょっちゅう大ボケかましてくる、そんなどこにでもいそうな母親ジョイスを演じるのが、なんとあのバーブラ・ストライザント。最初セス・ローゲンの名前だけしか知らずにこの映画を見始めて、「このお母ちゃん…、まさかバーブラ・ストライザント!?」と分かった時はびっくりした。実際の年齢は今や70近くになるらしいのだが、美人過ぎず適度に体の線が緩んでるところ(失礼!)が実に適役で、小うるさいけどなんだか憎めないお母ちゃんを好演している。
このセス・ローゲンバーブラ・ストライザント演じる親子の掛け合いがとても自然で「あーこういうことってあるかも」と思わせてくれることばかりで、観ていて本当の親子のように見える所がとてもいい。大爆笑といったコメディではないし、いかにも作ったようなアクシデントが起こるといったこともないので、地味目かもしれないのだけれども、終始ひどく和まされる映画に仕上がっているのだ。なにしろ親子同士、オバチャン同士のだらだらぐだぐだしたお喋りがなんだか楽しい。こういったひどく日常的な情景や会話を非常に暖かな視線で描いているところがこの映画の魅力だろう。
なにより今回お笑い要素控えめのセス・ローゲンが、あの風体なのにもかかわらずこの映画では妙にチャーミングに見えるのは、母親の前でなんだかもじもじもやもやしている演技がいじらしいからだろうし、そしてバーブラ・ストライザントはオバチャン街道まっしぐらの鉄板演技で、外国人有名俳優なのにもかかわらず、観ている自分自身の母親像をいつのまにか重ね合わせさせられてしまう所が素晴らしい。映画はこうして最後までほんわかしたムードで進行してゆくのだけれど、ラストに用意されたエピソードでちょっぴりびっくりした上にキュンとさせられる。なんだか自分の母親は元気でやってるかなあ、と思わされてしまう映画だった。

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