中年男と少女との地獄の道行き〜ゲーム『The Last Of Us』


近頃話題になったサバイバルホラーアクションアドベンチャーゲーム(長いな)『The Last Of Us』であります。このゲーム、謎の寄生菌の大流行により絶滅の危機に瀕したアメリカを舞台に、とある中年男といたいけな少女が危険に満ちた旅を続ける、といった内容なんですな。
冒頭の、平和なはずの街が一転、寄生菌発生によりパニックに至る様子がまず恐ろしい。この寄生菌に冒された人間は正気を失って人を襲い、挙句の果てには映画『マタンゴ』みたいな気色悪い姿へと変身するんですが、この感染者に襲われた人間もまた、恐ろしい姿へと変身して人を襲いだすんですな。まあザックリ言ってゾンビみたいなもんなんです。要するに数多あるゾンビ映画の冒頭の、恐怖に駆られた人々が逃げ場さえない状況で次々とゾンビに屠られてゆく様子がこのゲームでも再現されているんですよ。
そしてそれから20年が経ちます。人々は瓦礫となった街で細々と生きながらえていますが、寄生菌の恐怖は決して去ったわけではありません。街は軍隊が支配し、恐怖政治を敷いています。国家は存在しているのかどうかはわかりません。主人公は闇市場の運び屋をしながら糊口をしのいでいますが、とある理由から一人の年端もいかぬ少女をある場所に届けることを依頼されます。そして嫌々ながら仕事を引き受けた主人公は、少女を連れ、危険な略奪者や恐ろしい感染者たちの待つ街を乗り越え、目的地へ向かうという訳です。
まあ最近の洋ゲーでは当たり前のことなんですが、まずなにしろグラフィックが美しいです。廃墟になった街、そこに生い茂るジャングルとなった木々の描写が目を惹きます。あと、登場人物の造形も非常に細かく作り込まれています。ゲームの基本はまずステルス、次にスニーキング、そして隠密行動、と、とにかく物陰に隠れまくって行動することになります。銃などの武器はありますが、ガシガシ撃って正面突破、といった使い方はまずできないです。
あとは道端や廃屋でゴミ拾ってそれを組み合わせて武器や医療品を作ります。でもどっかのゾンビゲームみたいに火炎放射器だの電撃棒だのを作ったりなんかはできません。ナイフなんか一回使う毎に刃こぼれ起こしていちいちメンテしなきゃならんのでウザいです。あとどっかのアクションゲームみたいに壁よじ登ったり大ジャンプしたりもできません。主人公運動神経鈍いんです。というか、全体的になにしろひたすらリアル路線を貫いているんです。
このゲームがリアル路線を貫いているのは、プレイヤーにリアルなサバイバル体験とリアルな恐怖感を味あわせたいからなのでしょう。主人公は平凡な中年男であり、決してヒーローでもスーパーマンでもありません。出来ることは限られており、その限られた中から自らの命を守るすべを探していかねばなりません。そこがこのゲームの狙いなのでしょう。プレイの合間合間にはしょっちゅうイベントムービーが挟まれストーリーが語られてゆくんですが、その辺、非常に物語性を重視したインタラクティブ・ムービーっぽいゲームだとも言えます。
ただねー、これはゲームの完成度とは全く関係ないのですが、オレ、ステルスゲームって基本的に苦手なんですよ!やっててじれったくなるんですよ!なにしろせっかちなんですよ!堪え性がないんですよ!取り敢えず相手に突っ込んで無双したくなるんですよ!殆どの場合無双どころか玉砕ですが!オレのステルス嫌いは今まで散々この日記のゲーム記事に書いてきたんですが、しかし同時にステルス嫌いのくせに話題のゲームだとそれが基本ステルスでもついつい手を出しちゃうんですよねー。で、買ってプレイしてまた涙目になってるんですよねー。アホですねー。
だからまあ、個人的な趣味としてはこのゲームよりは『トゥームレイダー』のほうがずっと面白いんですが、このゲームに決して魅力が無いということではありません。やっぱりしょぼくれた中年男がいたいけな少女伴って危険な旅っちゅうシチュエーションは、なんといいますか一人のしょぼくれた中年男として悪い気がしないしねえ!そういえばこの間やった『バイオショック インフィニティ』もやっぱり同じシチュエーションだったけどよかったなあ!いやあオレ不純だなあ!
あとなんか、この辺の「成熟した大人と未成熟の子供との終末世界での道行き」って、コーマック・マッカーシーの終末小説『ザ・ロード』あたりを如実に思い出すんだよなあ。これってキリスト教的になんかあるのかしらん。指導者とそのしもべ、みたいな感じで。よく分かんないですけど、そういった意味合いもこの物語には隠されているのかもですね。

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)