ロンドンの下町は俺たちが守る!〜映画『ロンドンゾンビ紀行』

ロンドンゾンビ紀行 (監督:マティアス・ハーネー 2012年イギリス映画)


コックニーといやあロンドンの下町っ子とかそこに住む労働者階級の言葉のことを指すんですが、日本の下町っ子のようなヤンチャな連中がたむろし、「べらんめえあたぼうよ」みたいな訛りのある言葉を喋ってるそうなんですな。どこでも下町は一緒なんでしょうな。今回観た映画『ロンドンゾンビ紀行』の原題は『Cockneys vs Zombies』、いわば『下町連合vsゾンビ』みたいな意味になるんでしょうか、ロンドンに大発生したゾンビと、下町のヤンチャな悪ガキ&ヤンチャなジジババが、お互い歯を剥き出しあって戦っちゃう!というゾンビ・コメディなんですな。
イギリスのゾンビ・コメディというと『ショーン・オブ・ザ・デッド』を思い出しますが、そこからオタク風味を抜いて『ゾンビランド』的なライトさと高齢者アクション映画『レッド』の加齢臭を加えた様な映画、と言えばよいでしょうか。しかしまあこれらの映画と比べると若干と言いますか結構と言いますか乱雑に作られているのも確かで、シナリオの未整理さや編集のアバウトさ、テンポの悪さが散見するのがちと残念でしたな。例えば「ゾンビに噛まれた人間はゾンビ化する」という大前提を登場人物が理解しているように見えているにもかかわらず、ゾンビに噛まれたその辺の人を助けてみたりとか、ゾンビに噛まれた仲間を放っておいたりとか、無くした車のキーを探す一連のサスペンスの後、キーが見つかったにもかかわらず登場人物の一人が配線直結させて車を始動させたりとか、なーんかやってることがチグハグなんですね。
そもそもお話というのが「爺ちゃんの入っている老人ホームを地上げ屋から救うために銀行強盗する!」というどうにも浅はかなもので、ここでゾンビに遭遇した御一行様が今度は「爺ちゃんの入っている老人ホームをゾンビから救うために立ち上がる!」へと路線変更、お前らいったいどんだけ爺ちゃん好きなんだよ!と思えてしまいましたよ。まあこの頓珍漢さも下町の悪ガキ連中だからこその、アホなりの家族愛ということなのでしょうな。
で、悪ガキどもの向かった老人ホームもゾンビに襲われているんですが、ここに住む悪ガキの爺ちゃんというのが第2次大戦でナチをぶち殺しまくったという猛者という設定で、この爺さんが八面六臂の大活躍で他の足腰立たないヨイヨイの爺さん婆さんを守ってた、というのが面白いんですね。足腰立たないヨイヨイの爺さん婆さんも意外とゾンビと好戦してましたしね。ってかその辺の一般人より生存率高いジジババって一体…。
クライマックスは下町の悪ガキ&ジジイが揃い踏みで鬼神の如くマシンガンをぶっ放しまくりゾンビの群れをハチの巣に変える、というシーンが存分にカタルシスを与えてくれます。ここで大量の銃が必要だったから最初で(銃が必要な)銀行強盗をしたってことだったんでしょうが、だったら冒頭はマフィアの金を狙うとかでもよかったんじゃないのか、と思うんですね。理由は理由とはいえ強盗は犯罪でしょう。しかし奪った銀行の金は老人ホームを地上げする悪徳不動産会社の給料、ということになっているんですね。そしてこの悪徳不動産会社から老人ホームを守るという行動はいつの間にかゾンビから老人ホームを守る、という行動へとすり替えられますが、これはつまりこの物語が労働者階級と資本家との階級闘争の物語だ、ということなんですね。物語のラストに登場人物が「ゾンビからロンドンを守るのは俺たちだ!」と吠えたりしてますが、これは「資本家からロンドンの下町を守るのは下町っ子の俺たちだ!」ということを言ってるんですね。即ち「コックニーVS資本家=ゾンビ」ということなんだと思うんですよこの物語は。
それにしても老い先短い年寄ばっかあんなに救ってもしょうがねえだろ、とちょっと思ってしまったオレはやっぱり人非人なんでしょうか。ああそうですか。

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