世界の終りは君といっしょに〜映画『エンド・オブ・ザ・ワールド』

エンド・オブ・ザ・ワールド (監督:ローリーン・スカファリア 2013年アメリカ映画)

◆◆残り21日◆◆

「ヘイ!俺たちゃスペースシャトルの乗組員さ!これから地球に迫る小惑星を破壊しに行くのさ!破壊しないと地球に衝突、人類全員お陀仏だからさ!命を懸けても遣り遂げて見せるぜ!…あ、ちょっと待て、なんだあれは…?…ああああああ避け切れない、ああああああああ!!!」
スペースシャトルは爆発し、小惑星破壊ミッションは成し遂げられなかった。小惑星は3週間後に地球に衝突する。3週間後、人類は滅亡する。

◆◆残り20日◆◆

ニュースキャスターは喋りながら涙を流していた
地球は滅亡の危機に瀕していると
涙ですっかり濡れたその顔を見て
彼の言うことが嘘ではないということが分かった
――デヴィッド・ボウイ / 5年間

◆◆残り19日◆◆

ドッジは地球滅亡を目前に妻に逃げられ途方に暮れていた。そんなドッジの前にアパートの隣人ペニーが現れ、「寝すぎたあまりに家族の住むイギリスへの最期の飛行機に乗り遅れた」と泣き崩れる。ドッジに慰められたペニーは「今まで渡し忘れてたけど、自分の部屋に間違いで届いていた手紙がある」と言って古い手紙を渡す。それはドッジのかつての恋人からのものだった。折しも絶望した暴徒たちがアパートに迫り、命からがら逃げだした二人は、ドッジのかつての恋人に会うために車を走らす。

◆◆残り18日◆◆

まあ、どうせいつかはみんな死ぬ。

◆◆残り17日◆◆

生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ。

◆◆残り16日◆◆

「もしも明日世界が滅ぶとしたら、あなたはどう過ごしますか?」というよく聞くお題があって、まあ人それぞれいろんなことを言うのだが、まあだいたいが似通った物事だ。性欲食欲睡眠欲の3大欲求のどれかを満たしたい、とか。散財したい、とか。みんななにがしか、ずっと我慢していた欲望を、もう最後なんだからと、ここぞとばかりに遣り遂げたいということらしい。あとは家族や恋人と過ごしたい、とか。ずっと泣いちゃう、とか。自殺しちゃう、とか。

◆◆残り15日◆◆

その中でオレが最も優れた回答だと思ったのは、「世界の終わりを待っているだけなのは愚かな人間のやることだ。自分は、世界の終りが来るより先にこの自分の手で世界を終らせてやる」とかいうものだった。まあそんな物凄い力を持ってる人間なんて普通はいやしないけどさ!

◆◆残り14日◆◆

「死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…死ぬのはイヤ…」(惣流・アスカ・ラングレー

◆◆残り13日◆◆

世界の終わりを描いた物語は、それこそリグ・ヴェーダや聖書の昔から語り継がれており、ある意味人類普遍の物語の一つといえるかもしれない。当然昨今でも世界の終りや世界の終わった後を描いた物語は枚挙にいとまがない。たいていその多くは、破滅を目の前にして、パニックに至る者、自暴自棄になる者、絶望に身動きできなくなる者、どんな汚い手を使っても生き延びようとする者、そんな中でも人間性を失わないように努める者、などが現れる。極限の中での人間性、というのがそれらのドラマのテーマになるのだろう。

◆◆残り12日◆◆

なにしろ世界が終っちゃうんだから、これらアポカリプス映画は大抵暗いしシリアスだ。人間のむき出しで利己的な感情が描かれ、災厄に巻き込まれて人々はゴミのように大量に死んでゆく。しかしこの『エンド・オブ・ザ・ワールド 』は、終末を受け入れ、残りの人生を淡々と過ごそうとする人々が中心に描かれる。確かに物語冒頭では悲嘆に暮れる者や混乱した者、暴徒や自殺者が描かれたりするけれども、決してきつい描写にすることなくやんわり・さらりと描かれるだけで、物語中盤からは主人公二人のロード・ムービーの如き穏やかな描写が続く。

◆◆残り11日◆◆

それは「地球滅亡を目前にした人々の絶望」というよりは、まるで失恋男と失恋女の傷心旅行のようにすら見えてしまう。そう、この映画のテーマとなっているのは「迫りくる死への恐怖」ではなく、「遣り残したことへの後悔と贖罪」であり、「その喪失感のなかで心を寄せ合ってゆく男女」なのだ。煎じ詰めるならば、この『エンド・オブ・ザ・ワールド』は程よく甘くセンチメンタルな物語なのである。しかし、多くの暗く絶望的なアポカリプス映画に対し、決して深刻ぶらず、暖かく柔らかなトーンで物語が進行してゆく、こんな終末映画があっても悪くない。監督ローリーン・スカファリアが女性だからということもあるのかもしれない。

◆◆残り10日◆◆

主演は『40歳の童貞男』『ゲットスマート』のコメディ俳優スティーブ・カレル。この作品でも開幕早々女房に逃げられるという相変わらずの情けない中年男役だ。しかし今回はコメディ演技を押さえ、いつも途方に暮れた顔をさせながら、どことなく哀愁の籠った主人公を好演する。刹那的な欲望充足や馬鹿騒ぎに全く興味を示さない彼は、もともと自分の人生に多くを求めない男だったのに違いない。彼がかつての恋人を訪ねようとするこの旅は、熱烈に恋焦がれてというよりも、それぐらいしか思い残すことが無かったからなのだろう。

◆◆残り9日◆◆

なぜ私の胸はまだだどきどきしたままなの
なぜ私のこの目は泣いているの
知らないのね これが世界の終わりだってことを
あなたが別れを告げたとき
これで世界は終わったことを
――スキータ・デイヴィス / この世の果てまで

◆◆残り8日◆◆

主人公ドッジの本当の絶望は世界が終わることではなかった。彼の絶望の核心にあったのは、世界の終りを目前に、愛していたはずの妻に見捨てられたことだった。即ち彼にとって、世界が終わる前に、既に世界は終わってしまっていたのだ。だからこそあんなに彼は飄々と、まるで無関心なことのように、世界の終りに臨んでいたのだ。

◆◆残り7日◆◆

一方、ひょんな事から主人公と旅をすることになったペニーを演じるのが『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『危険なメソッド』のキーラ・ナイトレイ。痩身にきりっとした顔つきの美人女優で、映画の役柄もそんなキャラクターが多いが、この作品では自由気ままな所もあるけれどもどこにでもいそうな女性を等身大に演じている。時々ブスい顔を見せたり、よく見ると多少歯並びが悪いのが分かったりして、逆になんだか親しみが湧いてしまった。それにしてもこの人まだ20代なんだ…。

◆◆残り6日◆◆

それと白髪でお腹の出たマーティン・シーンがとある役で出ており、この出演シーンでまたしみじみと盛り上がる。

◆◆残り5日◆◆

去年観た最も心に残った終末映画は徹底的に絶望と虚無に塗れた鬱々映画『メランコリア』だったが、今年はこの『エンド・オブ・ザ・ワールド』かもしれない。「世界の終りに君といっしょに過ごしたい」という物語は、ありがちで意外性がないかもしれないが、しかしだからこそじんわりと心に沁みてくる。

◆◆残り4日◆◆

まあしかし、逃げられたとはいえそれまで妻がいて、その妻がいなくなったので今度はかつての恋人を探しに行って、その旅の途中で同行の若い娘とねんごろになっちゃうって、スティーブ・カレルむっつりしているくせしてどんだけモテ野郎なの?

◆◆残り3日◆◆

そして世界の終わりは、いやおうなく近づいてくるのだ。

◆◆残り2日◆◆

そんな記憶もみな、時とともに消えてしまう
雨の中の涙のように
俺も死ぬときがきた
――ロイ・バッティー(ブレードランナー)

◆◆残り1日◆◆

もし、世界の終わりが明日だとしても、私は今日、林檎の種を蒔くだろう。
――ゲオルギ

◆◆世界の終わり◆◆

でもそうだな、陳腐かもしれないけど、やっぱりこのオレも、世界の終りには、君といっしょにいられたら、って思うよ。



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