ドバイといえばアラブ首長国連邦の一つであり、未来的な高層建築が立ち並ぶ「中東の宝石」と呼ばれる国だ。映画好きな方なら『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』でトム・クルーズ演じる諜報員イーサン・ハントがドバイの高層ビルをよじ登る目も眩むようなクライミングを演じたことを思い出すだろう。ゲーム『スペックオプス ザ・ライン』はこのドバイが舞台となる。しかしなんと、このゲーム世界におけるドバイは、数ヶ月に及ぶ凄まじい砂嵐により街全体が砂漠に飲み込まれ、なにもかもが壊滅してしまった廃墟として描かれるのである。
ゲームの主人公は米軍エリート特殊部隊デルタ・フォースの部隊長マーティン・ウォーカー大尉。彼は壊滅したドバイから謎の救助信号を受け、二人の仲間と共にドバイの廃墟へと向かう。しかし、そこで彼らが見たものは、数ヶ月前このドバイに救援活動に赴いたまま消息を絶った米軍第33部隊が街を支配し、調査に向かったCIA諜報員たちを拷問にかけ、さらに民間武装ゲリラと血みどろの銃撃戦を繰り広げる悪夢のような戦場だったのだ。主人公ウォーカー大尉らデルタ・フォースの面々は、その戦闘に巻き込まれながら、ここで何が起こり、進行しているのかを確かめる為、事件の核心へと傷だらけになりながら近付いて行く。
ゲーム『スペックオプス ザ・ライン』はこのように、異様な舞台設定と特異なシナリオが目を引く三人称視点のミリタリー・アクションだ。まずなにより砂に飲まれ廃墟となったドバイの街の情景が凄まじい。砂丘の亀裂から下を見渡すとそこは実は砂に埋もれた高層ビルの屋上であり、亀裂の下には道路を挟んだビル群が渓谷のように連なっていたりする。この"砂"の存在はゲームにも大きな役割を果たしており、銃撃戦の最中に砂嵐が起こって視界がゼロになったり、また、砂に埋もれたビルの中で窓ガラスを撃つと割れた窓の外から津波のように砂が雪崩れ込んできたりして、これで敵を壊滅することも出来るのだ。
ゲームは『GoW』タイプのカバリングとそれをしながらの移動を巧みに使うことにより敵に対し優位に戦闘を行うことのできるゲームスタイルをとっている。ただし、このゲームでは調整があまいのかカバリングが失敗することが多く、わけもわからず突っ立った状態になってしまい敵に蜂の巣にされるという事態がままある。主人公には二人の仲間が同行するが、この仲間に指示を出して敵を攻撃することも出来る。主人公にしろ敵にしろ若干挙動が軽く感じることがあり、このへんは先に発売された『ゴーストリコン フューチャーソルジャー』あたりと比べるとまだまだだと感じさせる。
また、このゲームは18歳以上推奨のレーティングになっているほど残酷シーンが多く、血まみれだったり焼き払われたり街路灯から吊られたり腐り果てたりする死体があたりにゴロゴロしているのはいうまでもなく、拷問や処刑のシーンもふんだんに盛り込まれる。また、異国で叛乱を起こしそこで死の支配する王国を築く軍隊の存在、全てを覆う混沌とした様相などは、映画『地獄の黙示録』を髣髴させる。『スペックオプス ザ・ライン』はシステムや銃撃戦などのゲーム面こそありきたりで平凡といえないことも無いが、それよりもこういった陰惨で狂気に満ちた戦場を描くシナリオ重視のTPSゲームとして完成している。
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