■ダーク・フェアリー (監督:トロイ・ニクシー 2010年アメリカ/オーストラリア/メキシコ映画)
- ギレルモ・デル・トロが脚本・製作したホラー・ファンタジー映画です。監督のトロイ・ニクシーはバットマンも手掛けたことのあるコミック・アーチストということ。
- お話は離婚した父を頼り古い屋敷に移り住んだ少女が、地下室のさらに奥底に住む魔物の群れに魅入られ、命を狙われる、というものなんですね。
- 地下室の底に住む魔物は「歯の妖精」と呼ばれるもの。これは一般には民間伝承で言い伝えられる「子供の生え変わった乳歯をコインと取り替えてくれる妖精」なんですが、この映画では闇に乗じて人々を襲う恐ろしい魔物として描かれます。この「歯の妖精」、デル・トロの『ヘルボーイ』でも人々を襲う怪物として登場しましたね。
- 子供をさらう悪鬼、というとブギーマンの伝説ということもできますが、そういったお化け話というよりもやはり『パンズ・ラビリンス』のようなダーク・ファンタジーのテイストが強い作品ですね。
- この映画では仄暗い屋敷や荒れ果てた庭園、そして鬱蒼とした森の中などが非常に美しく描き出されており、そういった美術がまず目を惹きましたね。
- 「歯の妖精」たちは最初主人公の少女サリーと友達になろう、と甘い言葉を投げかけますが、次第にその凶暴な性格をあらわにしてゆきます。ネズミほどの大きさの彼らが手に手に武器を持ちながら暗がりから襲い掛かってくる姿は流石に恐ろしいです。
- 「家の中に恐ろしい魔物いる」と訴えるサリーの事を大人たちは最初信じません。そんな一人ぼっちのサリーが次第に追い詰められてゆく様子がサスペンスを盛り上げてゆきます。
- しかし最初に襲われた使用人のおじさんが、なんで妖精たちを見ているのにそれを言わないのかが引っ掛かるし、サリーのお父さんの娘の言うことを決して信じない頑ななまでの頭の固さも見ていて非常に歯痒くなってきますし、叩き潰された「歯の妖精」の証拠があるのにそれを無視する脚本も納得できません。妖精の存在を認め危険を察知したのにさっさと家を出ない登場人物たちの暢気さも首を傾げてしまいます。
- 一番納得できなかったのはあのラストで、「これはちょっと不条理過ぎないか?」と思ってしまいました。
- しかしそもそも、ホラーというのは死の不条理さを描くジャンルなんですよね。そしてギレルモ・デル・トロが監督した『パンズ・ラビリンス』も、彼が製作した『永遠の子供たち』も、彼の処女作である『デビルズ・バックボーン』にしても、どれも死の不条理、それも子供の死の不条理を描いた作品だったことを考えると、この『ダーク・フェアリー』もデル・トロらしい作品だと言えるんですよね。
- 子供をさらう悪鬼というのは、その昔、医療技術や知識が未発達だったため子供が今よりも簡単に死んでしまったり、また、貧困が堕胎や間引きを引き起こしていたことの暗喩と言うこともできるでしょう。それらは先進国では今は昔の話かもしれませんが、貧しい国では今でも死は「子供をさらう悪鬼」の姿をして子供たちの命を奪っているんです。
- デル・トロが何故"子供の死"に取り付かれているのかはわかりませんが、そこに深い悲しみや同情が存在しているのは確かです。その心情が反映された彼の作品は悲しくもまた美しい作品として結実しますが、この映画『ダーク・フェアリー』は不条理のための不条理といった陥穽に陥っているのがちょっと残念かも。案外この陥穽こそが監督トロイ・ニクシーの演出ミスということもできるんですよね。しかし全体的にはダーク・ファンタジー風味がなかなかいい味を出していて、決して嫌いな映画ではなかったです。
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