■ミッション:8ミニッツ (監督:ダンカン・ジョーンズ 2011年アメリカ映画)
- 『月に囚われた男』のダンカン・ジョーンズ監督が長編2作目として手掛けたSFサスペンスです。
- 主人公は特殊な装置により、列車爆破テロの犯人を突き止めるミッションを遂行しています。この特殊な装置は、爆破テロの起こる8分前に、主人公の意識を被害者となった男の意識にもぐりこませることができるのです。いってみれば「意識のタイムマシン」ということができるでしょうか。
- 主人公は、何度も何度も男の意識にもぐりこみ、爆破までの8分間に、列車内を捜査してゆき、そして何度も何度も死を体験してゆくんです。
- もうひとつ、この物語では、過去の他人の意識に戻ることが出来ても、決して現実は変えられない、即ち列車爆破テロは止められない、ということになっているんです。主人公は、ここで爆破犯を突き止め、次に起こす爆破テロを防ぐ、ということしかできないんです。
- それを知りつつも、主人公は、列車爆破テロを止められない自分に苦悩してゆきます。
- なぜなら主人公は、列車で出会うある女性に恋をしてしまうからです。しかし、現実では彼女は既にテロにより死亡しており、助けることなど決して出来ないからなんです。
- この、「どうしたって変えられない悲劇的な現実」というのが、この物語のひとつのキーワードになります。
- そしてこの物語は、そんな爆弾犯捜査とは別に、多くの謎を孕みながら進んでゆきます。
- 過去に起こった出来事の当事者の、最後の8分間だけに意識を送り込めるのはなぜか?
- 主人公はなぜこのプロジェクトに参加させられているのか?
- 主人公が記憶障害を起こしているのはなぜか?
- 主人公はなぜとじこめられているのか?主人公のいる場所はいったいどこなのか?
- そもそもこのプロジェクトはいったいなんなのか?
- こういったことが謎のまま物語は進行し、それが徐々に明らかになってゆくことで、物語は新たなテーマを獲得してゆきます。
- それは、自分は誰なのか?なぜここにいるのか?ということです。
- 即ちこの物語は一人の男のアイデンティティーの物語へと次第に収斂して行くのです。
- これは、ダンカン・ジョーンズ監督の前作、『月に囚われた男』と通じるものがあります。
- さらに物語は一歩踏み込み、現実とは何か?意識とは何か?という部分すら描こうとしています。
- そしてクライマックス、主人公が決意したある事柄は、『月に囚われた男』を超える、あまりにも切なく残酷な運命の選択でした。
- しかしこれは、ある種の"希望"でもあったのだと思うんです。
- あの美しく、素晴らしい余韻を残すラストは、ダンカン・ジョーンズという監督の持つ、優れた資質を観る者に印象付ける事でしょう。
- その資質とは、監督ダンカン・ジョーンズが、一見ありふれたサスペンスの中に、非常に哲学的なテーマを滑り込ませることの出来る稀有な映像作家だということです。
- これはやはりダンカン・ジョーンズが筋金入りのSFファンであり、そしてSFというものの持つコアなテーマに対し、とても理解が深いことの表れだと言えます。
- 『ミッション:8ミニッツ』は、決して派手な作品ではないのですが、一見の価値のある作品ということができるでしょう。
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