ウォークン・フュアリーズ―目覚めた怒り(上)(下) / リチャード・モーガン

ウォークン・フュアリーズ 下―目覚めた怒り

ウォークン・フュアリーズ 下―目覚めた怒り

生まれ故郷の植民星“ハーランズ・ワールド”で、200年ぶりに目覚めたタケシ・コヴァッチ。目覚めさせたのは植民星を支配するハーラン一族。彼らは、この星を揺るがす危険な動きを秘密裡に処理するため、元エンヴォイ・コーズ(特命外交部隊)のコヴァッチの力を必要としたのだが、謎の女シルヴィを助けたコヴァッチは、“ヤクザ”に追われる身となってしまう…。迫り来る敵に、コヴァッチの無慈悲な怒りが炸裂する。
シルヴィとは、いったい何者なのか?彼女はなぜ、革命家の記憶に取り憑かれているのか?シルヴィを救うために反乱勢力と合流したコヴァッチは、雇い主、ハーラン一族に公然と叛旗を翻す。それぞれの思惑を胸に秘め、熾烈な戦闘へと突き進むコヴァッチたちの行く手には、驚くべき結末が待っていた!「タケシ・コヴァッチ」シリーズ三部作完結篇、遂に最終章へ。 (Amazon紹介文)

リチャード・モーガンのSFノワール「タケシ・コヴァッチ」シリーズの第三弾。27世紀の未来、人々は身体に移植した「スタック」と呼ばれる記憶装置に精神をコピーし、肉体が滅びてもそのスタックを別の肉体に再移植することで不死を可能としていた。主人公は宇宙最凶と恐れられる特命外交部隊「エンヴォイ」の元隊員タケシ・コヴァッチ。彼はエンヴォイ除隊後、傭兵として様々な星系を渡り歩き、様々なトラブルを解決していた。この『ウォークン・フュアリーズ』でコヴァッチは、生まれ故郷の惑星において再びトラブルに見舞われる。酒場で助けた謎の女と行動を共にするうち、彼女がこの惑星を揺るがす"ある人格"を精神に寄生させていることがわかったのだ。その"人格"を巡って、敵味方入り乱れての激しい抗争が巻き起こる。
リチャード・モーガンがSFファンの間でどれほど評価されている作家なのかはよく分からないのだが、少なくとも自分は好きな作家で、1作目『オルタード・カーボン』、2作目『ブロークン・エンジェル』と楽しんで読むことが出来た。1作目のSFハードボイルドな作風、2作目のミリタリーSF的展開と、雰囲気こそ違え、主人公タケシ・コヴァッチの暴力的かつ非情なタフ・ガイ振りが実に魅力的で、理屈好きなフニャチンばかり出てくるSF作品に辟易していた自分には痛快極まりなかったのだ。そういうわけでこの3作目も大変楽しみにしていたのだが、なんだか今作、今までと違って元気が無い。
今作での主人公、なんかこう哀愁してるんですよね。おセンチなんですよ。残酷な事件のあった過去ばっかり振り返って、そこから抜け出せなくてくよくよしてるんですね。なあに、女のことなんですけどね。非情なタフ・ガイを期待して読んでるこっちは拍子抜けですよ。おまけに今作で起こる事件というのがどうも巻き込まれ型で、で、その事件から逃れるためにあっちへふらふらこっちへふらふら逃亡しすぎなんですよ。宇宙最凶のエンヴォイはどこいったんだよオイ。そしてその事件の解決も自分の意思というよりはなんとなくまわりに押されてという形で、まあ要するに空気読んじゃってるんですよ。おいおい凶暴な宇宙兵士が空気読んでるんじゃねーよ。
なにしろことあるごとに「エンヴォイの特殊能力で…」とか言ってるけど、そんなに強いんだったらこんなにトラブルは広がらなかったはずで「俺はエンヴォイ」って言うたびになんか言い訳しているようにしか聞こえないんですよね。あああのゴリラみたいに屈強だった主人公はどこ行っちゃったの!?って感じです。さらにそのトラブルの中心がいつも女でさあ…。作中いろんな女性と出会いますが、出会うたびになんだかグダグダメソメソしちゃってさあ…。「俺にとって必要なのはしけた女なんかじゃなく血の滴るような復讐と吹き荒れる殺戮の嵐」とか言ってくれよう。そんなわけでタフ・ガイがフニャチンになってしまったがっかりな作品でありました。

関連エントリ:『オルタード・カーボン』 『ブロークン・エンジェル』