『タクシードライバー』のBlu-rayが発売された


遂に映画『タクシードライバー』のBlu-rayが発売された。製作35周年だという。劇場でこの映画を観て深い衝撃を受けた10代のあの日から早35年とは。月日というのは本当に経つのが早いものだ。あれから自分にとって、この映画は長らく【心の中のNO.1映画】だった。まあ確かにオレも40を過ぎ、いわば【青春の蹉跌】を描いたこの映画を、いまだ最高の映画だともてはやすような心境では無くなったが、これまでの人生で観た様々の中でも、格別思い出の深い映画である事は間違いない。
この『タクシードライバー』のソフトは、これまでVHS、DVD、スペシャル・エディションDVDと3回買っている。つまりこのBlu-rayは4度目の買い替えという事になる。そして今回のBlu-rayで期待したのは、画質の向上であるのは勿論だが、なによりも、レーティングを落とすという理由の為、暗く粗い画質に改悪されてしまったあのクライマックスの銃撃シーンが、どれだけ綺麗に修正されているかという事だった。このシーン、実は最初撮ったままの画質のオリジナル・フィルムが残っていないらしく、これを綺麗にするのはデジタルリマスターするしかないような気がするが、結論から言うと、残念ながらこのBlu-rayでもその劣悪な画質は修正しきれていなかった。例えるなら、それまでBlu-rayで観ていた映画が突然DVDに切り替わるような画質の悪さだ。これは本当に残念でならない。
それ以外の通常画面は、DVDと比べて格段に解像度は上がっており、画面に現れる手紙や新聞の文字がきちんと読めるのに驚いた。ただ全体的に見違えるほど綺麗になった、とまでは言い難く、特に夜間撮影シーンでは粒子の粗さが目立つ。これは当時のフィルムの質感をそのまま再現したかったという監督スコセッシの要望もあったようだが、50年も前のハリウッド映画が見違えるようなくっきりした画像でBlu-rayリリースされているのを他のソフトで体験していると、やはり物足りなさを感じる。ただ、画質向上で驚いたシーンが一つあって、それはエンドロールなのだが、エフェクトを掛けたニューヨークの街並みのシーンに、一瞬主人公トラビスの顔が映るのだ。これは今まで確認したことが無かった。
特典映像はこれまでリリースされていたDVDと殆ど同じで、「1986 年に収録した監督マーティン・スコセッシと脚本家ポール・シュレイダーによる、DVD には収録されなかった貴重な音声特典を収録。また、和訳とオリジナル脚本との違いをお楽しみ頂けるピクチャー・イン・ピクチャーも和訳にて初収録」という部分だけが違う。さらに言ってしまえば、邪魔臭い化粧箱や目新しい写真が何一つないブックレットも全く必要が無かった。
しかし、最も特筆すべきはHD-DTSになった音質の明らかな向上だろう。『タクシードライバー』といえば誰もが思い浮かべるであろうバーナード・ハーマンのあのスコアが、驚くべき音質で再生できるのだ。まるで『タクシドライバー』の高音質サントラCDをかけながら映画を観ているような別物感がある。それと驚いたのは、トラビスがじっとりした目でTVのダンス番組を眺めるシーンで、そのダンス番組の音質があまりにも良すぎて、逆に「こんな音楽なんか入っていただろうか?」と一瞬耳を疑ってしまった。
というわけで改めて『タクシードライバー』を観て気付いたことを幾つか:
・トラビス、ぼっちのくせして女口説くときは口が達者だな
・にもかかわらずベッツィへのジョークがすべっているのはさもありなんだ
・トラビスはなんでコンロでこぶしあぶってるんだ?
・特典で、『タクシードライバー』はゴダールファスビンダーから影響を受けている、とスコセッシが語っていたが、とかいいつつ「ゴダールよくわかんね」とか「ファスビンダーも2.3本しか観たことね」とか言ってるスコセッシが好きだ
最後にオレがこの日記で6年前に書いた『タクシードライバー』のレビューを再録しておく。自分語り満載の思い入れたっぷりな文章で、今読むととても気恥ずかしいのだが、少なくとも、こんな感じで自分は『タクシードライバー』という物語に決着をつけようとしていたのだ。