映画『ルドandクルシ』はインチキでいい加減でテキトーで楽しく生きる人たちの物語だ!

■ルドandクルシ (監督:カルロス・キュアロン 2008年メキシコ映画


メキシコを舞台に、片田舎の貧乏暮らしから一躍スター・サッカー選手になっちゃった兄弟が巻き起こすスラップスティックな人間ドラマです。主人公はメキシコの小さな村で食うや食わずの貧乏暮らしをしているベト兄さんと弟のタト。サッカー好きの二人はある日、村に現れたスカウトマンのパトゥータの目に留まります。とんとん拍子にプロデビューした彼らはあれよあれよという間にスター選手になり、夢のような生活を送ります。しかし物事はそうなんでも上手くいくものではありません。兄のベトはギャンブルとドラッグに狂い借金だらけ、取り立て屋の催促にきりきり舞い。弟のタトはTVのセクシータレントに骨抜きにされ、試合の成績は落ちてゆくばかり。そんな彼らに逆転のチャンスを持ちかけるスカウトマンのパトゥータですが、実はそれは…というお話。ちなみにタイトルの『ルドandクルシ』は主人公兄弟のニックネームなんですね。

貧乏生活から抜け出してビッグなスポーツ選手になる!という物語はよくありますが、この『ルドandクルシ』はそういった物語にありがちな、ビッグになるまでの苦難の日々とか努力と忍耐の毎日とかは全く描かれないんですね。映画が始まってすぐスカウトされたかと思ったらあっというまにスター選手、大金手にして毎日ウハウハ、という身も蓋もない展開で、「なんじゃこりゃ?」とびっくりしてしまうんですよ。おまけにオレ、実はサッカー(に限らずスポーツ全般)に全然興味が無くて、最初「これハズレ映画引いちゃったかあ」とちょっと心配していたんですが、これが、観ているうちに段々面白くなってくるんです。主人公である二人の兄弟は、今日楽しく生きられたらそれでいい、明日のことは明日考えればいい、といった実にお気楽な生き方をしているんですが、その危なっかしい生き方が観ていて可笑しいんです。なんだか毎日自分の人生を担保に博打しているみたいな生き方なんですよね。

これはもう映画の舞台であるメキシコの、そこに住む人たちのメキシコ人気質としか言いようの無い生き方なんでしょうね。ラテンアメリカ人、とりわけメキシコ人は楽天的で情熱的なイメージがありますが、そのお気楽さゆえに深刻な事態に陥ることもあるだろうに、最後はなんだかあっけらかーんとしちゃってるんですよ。あんまり深刻ぶらないんですよね。陰陽じゃなくて陽ばっかりなんですね。こんなメキシコ人ばかりでもないんでしょうが、なんだかメキシコ人らしい生き方だなあ、と勝手に思えちゃうんですよね。オレなんかもお気楽な人間ではありますが、この映画の主人公兄弟のお気楽さには全然敵わないですよ。そもそも日本だったらだらしないとか言われてあっさり否定されちゃうような生き方ですよね。でもそんな日本人の暮らしだって、どこか息苦しいものがあったりするわけですから、どっちがどう、と言えないものがあるんですよね。

ただ映画はそんなメキシコ人気質を手放しで賞賛しているわけでもないのでしょう。成り上がって放蕩三昧の主人公兄弟のみならず、マルチ商法で生計を立てるベトの妻、結婚指輪を貰った次の日に別の男とくっついちゃうタトの彼女、麻薬王と結婚しちゃう兄弟の妹、スカウトマンの怪しげな山師ぶり、賄賂を渡せばチームメンバーにしちゃうサッカー監督、「テメエコラ今度の試合勝たなかったらマジぶっ殺すぞコラ。あとサイン下さい」とか言ってるファン、出てくる者出てくる者みんななんだかインチキでいい加減でテキトーで、それなのになんだかそれが当たり前のようにみんな普通に生きてる、それってどうなんだ?という問いかけもこの映画にはあります。同時にそんな不思議な国の妙なパワーが映画からは漏れ出していて、決して住んでみたいとは思わないがそのテキトーさで成り立っている国民性がちょびっとだけは羨ましく思えてしまった。あと冒頭で兄弟の運命を分けるPK合戦がクライマックスで生きてくる脚本は上手かったですね。


ルドandクルシ [DVD]

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