美術館地下に広がる無限の迷宮世界〜『レヴォリュ美術館の地下〜ある専門家の日記より』

レヴォリュ美術館の地下〜ある専門家の日記より 【ルーヴル美術館BDプロジェクト】/ マルク=アントワーヌ・マチュー

真の名前が失われ、今まさまざまな異称で呼ばれている、ある美術館。専門家ウード・ル・ヴォリュムールは、助手のレオナールと共に、その全貌を明らかにするべく地下に広がる巨大な倉庫へと足を踏み入れる。彫刻の型を納める保管庫、額縁の展示室、そして、あの名画にまつわる秘密…。何百日、何千日かけてもつきることのない迷宮の旅の終着点とは?異色BD作家マルク=アントワーヌ・マチューがイマジネーション豊かに描く、謎に包まれたルーヴルの舞台裏!巻末には作品リスト、ルーヴルの歴史解説、美術史家・小池寿子氏による解説を収録。 (Amazon紹介文)

8000年にわたる人類の美術遺産を納めたパリ・ルーヴル美術館。その敷地面積は40ヘクタール、常設展示室は4つの階に分かれ、総面積60600m²、展示物は3万5000点あまり、展示されていない所蔵品を含めると35万点にのぼるという。その展示されない所蔵品はどこにあるのか?――バンドデシネルーヴル美術館をコラボレートした《ルーヴル美術館BDプロジェクト》の1作品として刊行されたこの『レヴォリュ美術館の地下〜ある専門家の日記より』は、名前すら忘れられたとある巨大美術館を舞台に、その美術館地下に広がる無限の迷宮と化した美術品世界を描いた作品である。
主人公は美術専門家ウード・ル・ヴォリュムールと助手のレオナール。彼らはあまりに広大過ぎて既にその全貌を把握することの出来る人間が誰一人いないこの美術館地下を研究する為にやってくる。古代の遺跡を思わせる巨大な礎石群、永遠に続くかのように見える長大なダクトの廊下、水の底に沈んだアーチ状の回廊、洞窟と化した彫刻型の森、高層ビルの如く聳え立つ資料室の保管庫、そして行き倒れた男が死を待つ無限の階段を抜け、「保存」「技術」「修復」「模写」「額縁」など、芸術作品に関するありとあらゆる専門部署を渡り歩いてゆく。しかしいかに探索を続けようと、レヴォリュ美術館の地下世界に広がる混沌を解明することは容易くなかった…。
レヴォリュ美術館地下世界はエッシャーの騙し絵のように始点と終点が繋がりどこまでもループする無限世界だ。それはボルヘス的な円環を成し螺旋を描きながらフラクタルに続く終わりの無い空間と時間だ。あたかも宇宙に果てが無いようにレヴォリュ美術館地下世界にも終着点が存在しない。それはこの美術館が、始原から連綿と成されてきた人類の想像力の歴史を飲み込んだひとつの広大な宇宙だからだ。そして人類の想像力こそが、終わりの無い時間と空間を夢想し、それを生み出す。バンドデシネ作品『レヴォリュ美術館の地下〜ある専門家の日記より』は、そんなルーヴル美術館のもうひとつの姿を、ページの上に紡ぎ出すのだ。
参考:氷河の下に眠るルーヴル美術館で出遭ったものとは?〜フランス・コミック『氷河期』:メモリの藻屑、記憶領域のゴミ


レヴォリュ美術館の地下‐ルーヴル美術館BDプロジェクト‐ (ShoPro Books)

レヴォリュ美術館の地下‐ルーヴル美術館BDプロジェクト‐ (ShoPro Books)