■ジョーカー (バットマン) / ブライアン・アザレロ、リー・ベルメホ
“あのジョーカーがアーカム・アサイラムから釈放される” 衝撃的なニュースがゴッサムシティの街を駆け巡った。かつてはゴッサムシティの闇社会の帝王として君臨していたジョーカーだったが、彼が不在の間に、他のマフィアたちはジョーカーの縄張りを山分けし、我がもの顔で支配していた。ジョーカーに憧れ、彼の下で働きはじめた青二才のチンピラ、ジョニー・フロストは、やがて縄張りを取り戻すべく、残忍なやり方で次々とマフィアたちを始末していくジョーカーの狂気と混沌を目の当たりにする……。
蒼白の顔面に緑の髪、耳まで裂けた真っ赤な口、そして地獄の底へ通じているかのような冷たく凍てついた双眸。世界全てを嘲笑するかのような表情を浮かべ、徹底的な無慈悲と破壊をもたらす男、"究極の悪"、"混沌の神"、ジョーカー。ブライアン・アザレロ、リー・ベルメホ作画のコミック『ジョーカー』は、バットマン・シリーズで名高いスーパーヴィラン、ジョーカーを主人公に据えて描かれた物語である。
ゴッサム・シティの外れに位置する犯罪者専用の精神病院アーカム・アサイラム。ある日、ここに収容されていたジョーカーが出所することになる。このアーカム・アサイラムからふらり、と出てくるジョーカーのショットがまずなにしろカッコイイ!
それこそ世の邪悪全てをその背に背負い、全身から負のオーラを立ち上らせているその姿に、思わずしびれてしまう。そして、これから何が起こるのか、どのような悪逆が、非道が行われるのか、暗く背徳的な期待に、読む者は胸を高鳴らせることになる。
物語は、ジョーカーの子分となる一人のチンピラの視点から描かれる。ジョーカーの成す殺戮、破壊、陰謀を間近で見ながら、時にはその手先となって犯罪行為を行い、しまいには自らもその狂気のとりことなるこのチンピラの目を通して、ジョーカーという"巨大な虚無"の輪郭が描かれてゆく。そう、ジョーカーとは巨大な虚無だ。ジョーカーの犯罪に理由は無い。それは殺戮の為の殺戮であり、破壊の為の破壊だ。ジョーカーはひたすら得体の知れない存在であり、その道理の無さ、不可解さは、人智を超え、それはジョーカーという名のひとつの人格なのではなく、全てを飲み込むブラックホールの如き超自然的な虚無なのだと思わせる。
ジョーカーの行為はある意味犯罪ですらない。いずれ物は壊れ、人は死に、この世界は無へと還る。ジョーカーはそれを早めているだけに過ぎないとすら言える。人は善なる意思と生への渇望から、これらの崩壊をできるだけ押し止め、新しいものを生み出し、人の生きる世界を作ろうとする。しかしジョーカーはそれを善しとしない。ジョーカーにとってそれらは全て無駄なあがきに過ぎない。壊れるものは壊し、死ぬ者は死なせてあげよう!それがこの世の摂理ってもんさ!世界を嘲笑し、全てを無に、無秩序に、暗黒に帰す為にのみ存在するジョーカーは、実はエントロピーの神だったと言えるのかも知れない。
◎参考:
ジョーカー - 素晴らしき悪役列伝
敵は恋人 JOKER / LOVERS & MADMEN - 小覇王の徒然はてな別館