『RED / レッド』はどうももやもやの残る映画だったなあ

■RED / レッド (監督:ロベルト・シュヴェンケ 2010年アメリカ映画)


引退した凄腕の元CIAエージェントが活躍するというこの物語、予告編から血で血を洗う凄惨なアクションを期待していたが、観てみるとコミック原作らしい軽いノリの映画に仕上がっており、拍子抜けしたのと同時にコミカルさとアクションとがどちらも中途半端な仕上がりになっているように感じた。ネットのあちこちでも既に言及されているが、この映画はジジイ大集合の『エクスペンダブルズ』というより凄腕特殊工作員エージェントと素人女子とのコミカルなロマンス展開という点で『ナイト&デイ』のほうに似ていると思う。しかし『ナイト&デイ』よりは数段落ちる脚本と演出になってしまっている。以下、激しくネタバレしているのでこれから鑑賞の予定がある方は注意。
とりあえず主人公フランクを演じるブルース・ウィリスが良くも悪くも存在感だけで演技している。『ダイハード』シリーズ以降のこの人のでくの坊ぶりは今に始まったことではないので期待しないほうが正解かもしれない。特殊機関によるLSD投与の影響でイカレた危険人物と化した、という設定のマーヴィン演じるジョン・マルコビッチのキ印演技はどうにも浮ついた印象で板についていない。これはジョン・マルコビッチのせいというよりも演出の不味さのような気がする。フランクの元上司ジョーを演じるモーガン・フリーマンの脚本における扱いも不味い。最初の「あわや殺されるか」というシチュエーションで引くシーンはあまりに冒頭過ぎて観客は殺されるわけは無いだろうと簡単に想像がついてしまい、引く意味がまるで無い。
そしてそのジョーは中盤の武器商人の住居から出るシーンであっさり殺されてしまうが、ここで殺されることの必然性が無い。むしろここはREDメンバーの誰かが建物から出てきたところを狙撃されたと見せかけて実は撃たれたのはREDメンバーに仕立て上げられた武器商人だ、とするのが順当ではないか。そもそも凄腕エージェントのはずのジョーがどう考えても狙撃されるシチュエーションでたった一人だけ建物からのこのこ出てくる理由が分からない。そしてそのジョーの死も、最初の危機の演出で生き残ってたのだからまた生きているものだと思ったのだが結局本当に死んでいる。そして彼が死んだことへのフォローも薄い。
CIA潜入の場面もお粗末だ。秘密文書保管庫のドアのパスワードが分からない主人公フランク、ID確認装置が設置された壁を蹴破り回線を引きちぎってしまうのだが、天下のCIAのトップシークレットが隠された建物が、木造モルタル仕上げでもあるまいしまさか簡単に蹴破ることの出来る筈もなかろうが。その後の若手CIA職員の部屋へわざわざ殴りこみを掛けに行くシーンも、アクションそれ自体は盛り上がるが、結局危険をより一層呼び込んだだけで、そもそも隠密にCIAに忍び込んだ意味をなくしてしまうでないか。
さらに傷を負った元MI6諜報部員ヴィクトリア(ヘレン・ミレン)がマーヴィンに「私はもう駄目、私を置いて先に行って」と言うシーンは、その後のヴィクトリアとある人物とが出会うシーンに繋ぐ意味があったのだろうが、マーヴィンが何も言わずあっさり置いていってしまうのがどうにも解せないし、結局最終的にはぴんぴんしている訳だし、なにが「もう駄目」だったのか分からない。結局どれもこれも、物語展開のきっかけになるエピソードの作り方が練りこまれておらず、適当過ぎるのだ。それで観ていてどうももやもやするところばかりが残る映画となってしまった。