面白うてやがて恐ろしき。〜映画『インフォーマント!』

インフォーマント! (監督:スティーブン・ソダーバーグ 2009年アメリカ映画)


タイトルの「インフォーマント」というのは"情報提供者"って意味。アメリカの大手穀物商社が舞台なんだが、実話をちょっと脚色して作られている。いってみればセミ・ドキュメンタリーなんだ。この物語はここに勤める中堅社員マーク・ウィテカーさん(マット・デイモン)がFBIに自分の会社がヨカラヌコトをしているのをチクッちゃうところから始まる。そしてFBIの皆さんは「おおそれはただごとではない」とウィテカーさんに秘密の捜査協力を依頼するわけだ。こうしてオープニングを書くと"企業の不正行為を告発した正義に燃える市民を描いた社会派ドラマ!"のように思えるが実は全然そうではないのがこの映画の一筋縄ではいかないところ。実は主人公であるこのウィテカーさん、煮ても焼いても食えない自分勝手な大嘘つきだったのが次第に明らかになってくるのだ。映画『インフォーマント!』はこのウィテカーさんのあきれた人間性を描いたコメディなんだ。

だいたいこのウィテカーさん、最初は「大志を抱いて入社した自分の会社が不正を行っているなんて許せないから密告しました!」とかカッコイイことを言っといて、後から段々面倒臭くなって「もう協力止めたいっすけどー」などと言い出す始末。FBIに怒られて渋々協力しだすと今度は段々その気になり「俺って007みたいっすね?カッコよくね?」などとほざき、またまたFBIに「真面目にやって下さい」と釘を刺されるというアンポンタンぶり。しかも捜査が進むにつれ、実はこのウィテカーさん自体がリベート受け取りまくりの犯罪行為を繰り返していたことがバレ、今度はウィテカーさんが追求されるハメに!?あげくに「いや俺が密告しなかったら会社の不正行為分かんなかったんだし、リベートなんてみんなやってることだし、自分の罪は帳消しにしてよ?」と言い出す都合の良さ。そう、もうどこまでもグダグダのウィテカーさんなのである。

単なるクルクルパーかと思えちゃうウィテカーさんだが、そもそも大手商社で実力を認められているバリバリ遣り手な企業人で、捜査協力をしながらも出張で世界中を飛び回っていたりもするのだ。当然ガッポリ給料を貰いイイところに住み、美人の奥さんと豊かな生活を送っている社会の成功者なわけだ。切れ者では無いにしても頭が悪いワケがない。嘘に嘘を塗り固め、その場その場を適当にしのいでいるけれど、それでも周りを上手く丸め込んでいる様は詐欺師の素質さえあるではないか。オレはこの間観た天才詐欺師の映画『フィリップ、きみを愛してる!』を思い出したぐらいだ。

しかしウィテカーさんは自分が何か間違ったことをしているなんて露とも思ってない。そこにあるのは徹底的な倫理観の欠如と自己中心的な都合の良さと無思想なダブル・スタンダードだ。それは簡単に犯罪に結びつくものだし、結果的にウィテカーさんの違法行為は露呈してしまうのだけれど、社内告発さえしていなけば彼の破綻した性格は誰からも気づかれずに最後には会社のCEOにさえなっていたことだろう。そして、自己中心的であろうが倫理観が低かろうが利益を上げてんだからなんか文句あっか?みたいな会社なんてアメリカに限らず日本にだってゴマンとあり、それは実は、ウィテカーさんみたいな人間性のネジが何本も抜けているような責任者によって経営されているんだろう。笑えるお話だったけれど、そんなことを考えたらちょっと怖いと思える映画でもあった。

インフォーマント! 予告編


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