アメリカ社会の底辺を描く佳作ミステリ〜映画『ゴーン・ベイビー・ゴーン』

ゴーン・ベイビー・ゴーン (監督:ベン・アフレック 2007年アメリカ映画)


アメリカ、ボストン。4歳の幼女アマンダが誘拐された。アマンダの叔母夫婦は警察の捜査だけでは頼りにならないと、地元の土地勘に優れているパトリック(ケイシー・アフレック)とアンジー(ミシェル・モナハン)の私立探偵コンビに少女の捜索を依頼する。二人はレミー刑事(エド・ハリス)らに協力しながら町で聴き込みを開始するが、その中でアマンダの母ヘリーン(エイミー・ライアン)が麻薬常習者であり、麻薬取引にも係わっていた事実が浮き上がってくる。

『ミスティック・リバー』の原作者デニス・レヘインの小説『愛しき者はすべて去りゆく』を、俳優ベン・アフレックが初監督したサスペンス・ドラマ。日本未公開作でDVDスルーになっているが、なかなかに渋い佳作ミステリに仕上がっていると思う。まず主人公となるパトリックとアンジーの男女ペア探偵という設定が面白い。二人は幼馴染で歳も若く、かつてはどうやらワルだったらしいパトリックと、いつも引き気味で大人しそうなアンジーの性格の対比が新鮮で、演じる二人の俳優も若々しい。だが彼らが渡り歩くのは貧困、無知、ネグレスト、麻薬中毒、麻薬売買、変質者など、社会の底辺に存在する人々の中だ。

だから作品のトーンはどこまでも暗い。パトリックがかつてのワル仲間の間を昔のよしみで聞き込みするシーンなども、地域社会の密な人間関係を強調し、荒廃してゆく自らの町を憂えるパトリックの心象をうかがわせる。物語の展開はミステリ小説原作らしく後半二転三転し、いわゆる"思いもよらない結末"を見せるが、これは逆にそれまでのリアリティある人間ドラマを妙に作り物臭くしてしまう結果になってしまっていて惜しい。ただ、正義という理想と遣り切れないほど惨い現実、という二律背反の中で主人公が引き裂かれ苦悩するラストは深い余韻を観るものに与えるだろう。モーガン・フリーマン, エド・ハリス, エイミー・ライアンで固められた脇もまた渋く、味わいがある。

■『ゴーン・ベイビー・ゴーン』予告編


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