■インビクタス/負けざる者たち (監督:クリント・イーストウッド 2009年アメリカ映画)
■オレとクリント・イーストウッド
クリント・イーストウッドの監督により製作され去年上映された『グラン・トリノ』と『チェンジリング』は相当よく出来た面白い映画で、イーストウッドスゲエよ!あんた天才だよ!とその底力を見せ付けられる思いだった。もちろん世間での評判も高く、イーストウッドといえばもはや名監督と言ってもいいぐらいなのであろうが、実はオレ、この人の映画ってあんまり観たことがないのだ。俳優としても有名だし、評価の高い映画を撮っていたのは知っていたけど、今まで全然興味が湧かない人だったのである。俳優として出演した作品では『ダーティハリー』シリーズとあと2、3本観たきりだし(何故か『白い肌の異常な夜』とか『恐怖のメロディ』とか)、監督作品はほぼ壊滅的といっていいほど観ていない。なんかこう、オレの趣味と合わないんだよな。映画に限らず、小説や音楽なんかでも、世間一般の評価は高いけど全く興味の湧かない人というのは存在するが、オレにとってイーストウッドとはそういう範疇の人だったのだ。
だから、というわけでもないが、『グラン・トリノ』も『チェンジリング』も本当にいい映画だったけど、2009年のベスト10を作ってみたら、やっぱり入らないし、入れなかったのだ。凄いいい映画だ!というのと、凄い好きな映画だ!というのは微妙に異なっていて、個人的なベスト10に入れようとすると、オレのカラーからなんだか外れてしまうのだ。まあオレのカラーなんぞ世間の人にはどうでもいい話だし、たいしたもんでもないのだが、例えば『ドゥームズ・デイ』や『アドレナリン2』だったら「これは何が何でも入れるべきだろ!」と鼻息荒くして思うけれど、『グラン・トリノ』だったら「とても完成度の高い映画だったし映画ファンの端くれとして評価している所を見せねばマズイですよね?」となんだか客観的に考えてしまうのである。つまり直情的にオレの脳髄に入ってくるものと、頭で考えてどうとかいうのは別だってことなんだろうな。なんだか屁理屈をグダグダと書いてすまんが。
■マンデラさんはやり手だった!?
というわけで『インビクタス/負けざる者たち』である。南アフリカでネルソン・マンデラでラグビーの話らしい。いやーオレ、観に行くまでずーっとサッカーの話だと思ってました!スポーツ苦手なんでよく判ってないんです!すいません!で、映画が始まってずっと観ていてけど、これ、ラグビーの話というより、ネルソン・マンデラはスゲエよ!という話だということがわかりました!自国の弱小ラグビー・チームをマンデラ大統領が叱咤激励鞭撻鼓舞してワールド・カップで大勝利させる、というお話なんだよな。スポーツ映画ではよくあるパターンだが、これ、本当の話だというからやっぱり凄い。やる気のない部下をやる気にさせて売り上げ増進とか狙ってる経営者とか管理職の方なんかは会社にひとりマンデラさんが欲しくなっちゃうんじゃないかと思ったぐらいである。しかもその励まし方というのが「俺がムショに入ってた頃にこんなことがあってな…」などと聞く者にとって問答無用な凄みのあるリアル体験を聞かせるもんだからひとたまりもない!この映画を観てイニシャチヴとは何かを学びたい人はまず刑務所に入ることを考えてもいいのではないだろうか(違う)。
で、この『インビクタス』と『グラン・トリノ』と『チェンジリング』を続けて観て、イーストウッドという人は、少なくとも近作において、《正しいということは何か》をテーマにして映画を撮っている人なんじゃないかしらん、と思ったのだ。それは人として、であると同時に、アメリカという国の、《正しいということは何か》ということだ。『インビクタス』は南アが舞台だけれども、指導者の持つイニシャチヴの資質、という点において、アメリカ政治のあり方、ということに読み替え可能だろう。イーストウッドは、長く共和党支持者であることが知られており、先の大統領選挙でも民主党オバマではなく共和党マケインへ投票していたということだが、『インビクタス』で描かれるマンデラが「物事は変わってくのだ」といったニュアンスの言葉を多く発していたのを観ても判るように、今回の大統領選で勝利したオバマに対しこの映画でなにがしかの思いを込めていたのではないか、と取ることも出来るのではないか。
■正しいこととか、なんとかかんとか。
それはそれとして、オレがイーストウッドが苦手だったのは、この《正しいということは何か》というテーマにひとつの原因があったからなのではないかとも思ったのだ。なんかこう人間としてヒネた生き方をしてしまっているオレにとって、真正とか公正とか公明正大とかは割りと苦手な話なんである。これに倫理とか道義とか正義とか加わるともう目が当てられない。だいたいあの名作『ダークナイト』でさえ「正義とは何か」なんてやられたばっかりに「ウッゼー映画」と思ったような人間なのである。なんであの時バッドポッドでジョーカー轢き殺さなかったんだよバットマンよおおツメがアメーんだよオメーはよおおお!と逆上したぐらいなのである。エログロバカ映画観て「ヒャッハー!」と躍り上がるような人間なのだ。そんなだからイーストウッド映画がこれまで苦手だったのかもしれない。今度はイーストウッドにエログロバカ映画を撮ってもらいたいものだが、まあ、アリエネーだろーな!そうはいいつつ『インビクタス』、いい映画だったよ。