タイムマシンの殺人 / アントニー バウチャー

タイムマシンの殺人 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

タイムマシンの殺人 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

論創社ダーク・ファンタジー・コレクション》第3巻はSF・ミステリの評論や新人発掘で有名だったというアントニー・バウチャー。ただ、自分は名前を聞くのは初めて。全体的に見ると評論家の書いた小説作品の悲しさか、小ぶりで地味、こう書くのもなんだが殆どが凡作だったなあ。発表年代から考えれば古いのも当たり前なんだが、古き善きというより単に古臭い…。表題作「タイムマシンの殺人」からしてそうなんだけど、SFともミステリともとれるが結局は中途半端な作品ばかりだしホラーや"奇妙な味"風味の作品もアイディアに膨らみがなくてちょっと退屈。
そんな中で割と面白かったのは一日にひとつ罪を働かないと魂を奪われる、という呪いを掛けられた男と悪魔との物語「悪魔の陥穽」。最初は嫌々ながら軽犯罪っぽいことを犯していた主人公はそれにも罪悪感を覚え、悪魔を出し抜こうと"罪とは何か?"についての解釈を巡らせる…というもの。
「スナルバグ」は大金を手にしたいが為に悪魔を呼び出し明日の朝刊を手に入れた男の物語。しかし折角手に入れた新聞も悪魔も何の役にも立たず、結局八方ふさがりの男はあることを思いつくが…。
「たぐいなき人狼」はタイトル通り狼男のお話なのだが、これが狼男のくせに善人(?)であり、さらに他人に呪文を唱えてもらわなければ狼から人間に戻れないという設定がコミカルさ生み、後半は派手なアクションまで登場して思いもよらない展開をみせる。
この「悪魔の陥穽」と「たぐいなき人狼」の両作品に登場する魔術師オジマンディアスがなかなかキャラが立っており、さらに魔術師のくせに両作品では最期には何の役にも立っていないというところが楽しい。このオジマンディアスでシリーズでも作ってくれればよかったかもしれないな。