宇宙、それは人類に残された最後の開拓地。

スター・トレック (監督:J・J・エイブラムス 2009年アメリカ映画)

■SFTVドラマ「宇宙大作戦

スター・トレックである。宇宙大作戦である。宇宙大作戦といえばスポックでありスポック掴みでありバルカン式挨拶であり、転送ビームでありフェイザー銃でありプシュッと肌にくっつけるだけの注射器であり、クリンゴンでありジョージ・タケイはゲイだった、なのである。アメリカNBCネットワークにおいて1966年から1969年まで全3シーズンが制作・放送され、日本でも放送されたが、かくいうこのオレも再放送あたりできちんと観ていて、その胸躍る宇宙冒険活劇に心ときめかせていたものである。

宇宙大作戦はその溢れるSFマインドの豊かさのみならず、コスモポリタンな人種編成による多種多様で個性的なクルーの顔ぶれが楽しかった。アメリカ、イギリスの西洋白人のみならず、ロシア人、アジア人、アフリカ系黒人、さらにはバルカン人と呼ばれる異星人ら、国家・人種・性別・居住惑星を乗り越え構成されたメンバーが一致団結して宇宙の謎に挑む、という物語は、冷戦構造下と黒人公民権運動の中にあった時代のアメリカのTVドラマとしては破格なものであり、ある種の理想主義とオプティミズムに彩られた、まさしく未来的なドラマであったのだ。

■映画になった「スター・トレック

しかし、TV放送終了後にもファンの根強い人気と熱意から幾つかの映画作品が作られたが、これが実は、たいして面白くなかった。スター・トレックというドラマの根幹にあった理想主義とオプティミズム、さらには60年代的科学主義と啓蒙主義が、どんどん複雑化してゆく時代と世界情勢にそぐわなくなってきてしまった、ということなのかもしれない。スター・トレックの後期映画作品は、SF映画というよりは"宇宙大作戦のコスプレをした人たちの内輪ウケの物語"としてしかオレは観れなかった。

そんな中で製作された2009年版"最新解釈"スター・トレック。USTVドラマ「エイリアス」「LOST」の脚本を担当し、「アルマゲドン」の脚本を書き、「M:i:III」の監督をし、さらには2008年度の超弩級作品「クローバーフィールド/HAKAISHA」の製作に携わったJ・J・エイブラムスが監督を務めたというではないか。う〜んこれは楽しみだね!という訳で長い前置きだったけど早速観て来たよ!

■それってヤマトみたいだし…

さて映画開始まもなく惑星連邦の戦艦USSケルビン号と謎の異星人の超巨大宇宙戦艦との熾烈な戦闘、そして戦艦USSケルビン号艦長によるカミカゼ・アタックといった怒涛の展開が成されるんだが、この物語運びとか浪花節的なドラマ展開って、なんかに似てるなあ、と思ったらコレ、「宇宙戦艦ヤマト」じゃないですか。その後の少年カークの登場シーンはアメリカのド田舎の広大な土地だったりするけど、この辺のアメリカ人の原風景を持ち出すところは映画「スーパーマン」みたいだし、中盤からのクリーチャーの扱いはスター・ウォーズみたいだし、勿論これらのアニメや映画のほうが後になって作られたもんだけど、なんか不安になってきたなあ…。

その後も惑星破壊だのタイム・トラベルだの大味な大風呂敷が広げられるんだけれど、やっぱり疑問だったのは敵役の最終兵器である"赤色物質"なるブラックホール兵器だったなあ。そんな超質量物質を小型宇宙船のタンクみたいのに入れて取り扱ってなんでもないのがよく分からなかったけれど、それよりもその兵器を惑星破壊に使うのにビームドリルを使って惑星に穴開けなきゃならん、というのも意味が無いように思えたが。マイクロ・ブラックホールを惑星に射出するだけで十分でしょ。…というかこういう細かいSF設定をとやかく言わずに楽しむべきなんだろね…。

■ヤング・スタトレ・クルー見参!

映画は「スター・トレック」ビギニング、ということで(オリジナルとは違う時間軸のいわゆる並行宇宙的な別世界なんだけど)、若かりし頃のクルーたちが一人また一人と登場してくるところはさすがに楽しかったね。皆新任と言うことで初々しいのと、TVオリジナルの登場人物たちとどれだけ似ているか、というのをニヤニヤしながら眺めるのがまたいい。やっぱりヤング・スポックのいでたちや言動は喝采ものだったな!「論理的には」とかブツブツ言うのやスポック掴みだのバルカン式挨拶だのが出たときは素直に嬉しかった!

しかーし!そんな中で最も驚愕したのはエンタープライズ機関主任スコットが登場した時だ!「なーんかハチャメチャなノリしたしたヤツが出てきたけどもこいつイギリス人なんだろうなあ」と思ってたら、これって「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「ホット・ファズ」に出てたサイモン・ペグだったんだね!?キャスト全然知らないで見てたからびっくりした!もうサイモン・ペグと分かった瞬間からこのスター・トレックは「往年のSFTV名シリーズの映画化作品」から「サイモン・ペグの出てるSF映画」とオレの中では決定してしまった!

逆にTVオリジナルでスポックを演じたレナード・ニモイが出ていたのには特に感慨は無かったなあ。所謂トレッキーズと呼ばれる人たちには凄いことなんだろうけれども、オレ的にはリスペクトも大事だとは思うんだけれど、過去作品をクリアした上での新生スタトレというのを観たかったというのがあるのよ。この辺はファンが多いから難しいんだろうなあ。ただ、物語としてはカークが艦長になるいきさつがかなり強引で首を傾げる部分もあったけど、結果的にはスター・トレック宇宙大作戦も知らなくてもSF映画として面白く観られる作品に仕上がってたんじゃないかな。例のナレーションが最後に入るのも心憎い演出だった!

しかし一つだけ思ったのは、"コスモポリタンな人種編成"で作られたポジティブな世界観のドラマを目指したんなら、やっぱりアラブ人を新たにクルーの中に入れるべきだったね!