某日は晴天なり 《フモの惑星・その1》

某日。喫茶店に入り茶を飲んでいると隣の席に男が一人座った。奇妙に落ち着きがなくやたらきょろきょろしている。そしてオレの座っている席のテーブルに目を向けると「これ100万円するんですよね」などと言うではないか。なんだこいつは、と思って無視していたら今度は「あんたは村上龍に似ている」とオレの顔を見て言う。そして「あはは。本で読んだんだ。俺は知っている。知っているんだ」とぶつぶつ呟きながら席を立ちまたもやきょろきょろと辺りを見回しながら落ち着かなげに店を出て行った。まずい。実を言うとこのテーブルは確かに100万円だしオレの正体は不覚ながら村上龍だ。何で分かってしまったんだろう。ひょっとしてオレが数億円の有価証券を持っており中国地方に広大な土地を所有し世界規模の複合企業のCEOで政財界に有力なコネを持ち常に専用ジェット機で飛び回りハリウッドスターと浮名を流し時期アメリカ大統領選に立候補していることも知っているのだろうか。そうかこれは全てあの盗聴装置のせいだ。オレの部屋にも街のそこかしこにもそしてオレの着る服や髪の毛にまで隠されたあの盗聴装置のせいなんだ。そしてスパイ衛星が宇宙を駆け巡り常にオレのことを監視しているんだ。インターネットに繋がるといつもオレの顔が動画で写真で戯画で音声で常に画面に現れる。きっとみんなバレているんだ。みんなみんな知っているんだ。そして今のあの男は預言者であり導師なのだ。そうだあの男に付き従おう。これからオレがどうすればいいのか神託を授かる為に。この世界をどう導きどう変えていけばいいのか教えを乞おう。その予見がオレの頭に閃くとオレは男を追うために店を出た。すると出てすぐに目の前に閃光が走りオレの体はゆっくりと宙に持ち上げられていくではないか。見上げると空には銀色に光輝く巨大な円盤が。そして円盤に乗り込んだオレは宇宙人と共に銀河系を駆け巡りアンドロメダ星雲を大マゼラン星雲を飛び交い宇宙の神秘と真理に触れさらに時空を飛び越えその開闢と終焉を体験し新たな宇宙の胎芽としてもう一度目覚めると再び地球に舞い戻り同じ歴史を繰り返すこの世界のこの土地でちまちまと日記の文章を書いているというわけであった。という結末であった。まあ喫茶店に変な男がいたところまではホントなんだけどね。あとは筆が走ったというかキーボードのキーが走ったというか、しかしキーボードのキーが走るってどういうことよ。EnterだのShiftだのAltだののキーがピョンッと飛び出し手足が生えて脱兎の如くキーボードから逃げ去るのかよ。「@;)('&%$#+`*?\sdfghjkl」とか言いながらね。まるで現代の百鬼夜行だね。それにUFO拉致ネタって前も一回やったなあ。ネタが無くなるとUFOに頼るというのはやはりX-FILEの観過ぎなんだろうか。あれ好きだったもんなあ。…ん?なんだあの光は。あああああ体が持ち上げられてああああああああ