天気晴朗なれども日は高し / 山上たつひこ

山上たつひこ撰集第3巻は山上の時代劇ギャグ作品を中心に収められている。しかしこれまで意識したことはなかったが、山上の時代劇ギャグがこれほど高水準の面白さを持っているとは思わなかった。確か作家の半村良が、現代を舞台にした物語を描くよりも時代劇のほうが実は自由に描けるものなのだ、と言っていた様な気がするが、山上のアナーキーな発想が時代劇という自由さの中でさらに活き活きと遊びまわっている、ということなんだろうか。取りあえず登場する人物の殆どが気が狂っている。ごみくずを捨てるように人を殺すし、男も女も獣の様に淫乱で、モザイク入りの性器が画面のあちこちに飛び交う。しかしそれでもこの漫画はギャグ漫画なのだ。
「仇討ちミコちゃん」は天然の姉と理屈っぽいがネジが1本外れているミコちゃんとの仇討ち行脚のお話。「さるとび佐助 修行編」「さるとび佐助 活劇編」は少年さるとび佐助の活躍を描いたものだが、がきデカのような少年誌ノリがなんだかほんわかして和んだ。「天気晴朗なれども日は高し」は宮本武蔵佐々木小次郎を陥れる為に巌流島にピタゴラ装置のような罠を作る話。「幕末お笑い三人組」「いやだなぁ沖田くん」は新撰組を題材にした作品。沖田総司が完璧な変態馬鹿野郎として描かれている。「八百八町青空侍」は江戸の様々な基地外や変態や馬鹿が登場する。「鬼刃流転」は邪気放つ天才剣士・柳左近の流浪の旅の様子が描かれるが、これもギャグテイストの裏にギラギラした狂気の輝く傑作連作短編である。