ブラザー・フロム・アナザー・プラネット (監督:ジョン・セイルズ 1984年アメリカ映画)

N.Y.ハーレム125番街に現れた風変わりな黒人男(ジョーモートン)。言葉を解さず、街の景色を物珍しそうに眺める彼は、実は宇宙の奴隷狩りから逃れてきた黒人そっくりの異星人だった。街の気さくな黒人達に次第に受け入れられてゆく彼だったが、彼を追う奴隷狩りの異星人達がすぐ間近まで迫っていた…。10年以上前深夜TVでやっていたのを、何の予備知識も無く観たらこれが実に面白い作品だった。今回DVD発売されたのをきっかけにもう一度観返してみたが、やはりよく出来た傑作である。

この映画の魅力は低予算でありながら豊かなイマジネーションで作品世界の構築に成功しているという事だろう。SF映画といえば金の掛かったセットやVFXなどを思い浮かべるが、それらが一切無くとも想像力さえあればここまで素晴らしい作品を作る事ができる、といういい例だと思う。手造り感溢れる特殊メイクやVFXが極稀に現れるけれども、逆にそれらが全く無かったとしてもこの映画はなんら遜色なく成立してしまう。追うものと追われるもの、そしてそれに絡む様々な人々、といった、シンプルなストーリーも功を奏しているだろう。単なる黒人俳優をこれは宇宙人なのだ、と説明し、黒服の怪しげな白人を、これは悪い宇宙人だ、と説明されれば、あとは観客の想像力の中で物語はどこまでも広がって行くのだ。観る者の想像力に物語を委ねる事、ここが優れているのだ。

勿論物語の持つとぼけた雰囲気も大切な要素だ。何も喋らない主人公のリアクションが様々な面白みを生み、それに勝手な解釈をつけて納得したつもりになっている周囲の勘違い振りが笑わせてくれる。悪い宇宙人が白人の姿だというのもあまりに分かり易い設定で可笑しい。主人公の宇宙人はもとより彼を囲む街の黒人、ヒスパニック系移民などのおおらかで力みの無い自然さが映画を暖かなトーンで包む。”アナザー・プラネット=別の惑星”からやって来た異星人を何のためらいも無く”ブラザー=兄弟”として受け入れる、コミュニティの懐の深さ、同胞愛の強さも、ブラック・ムービーとしての側面を伺わせて面白い。地球を訪れる孤独な異星人という映画では、ディヴィッド・ボウイの『地球に落ちてきた男』という傑作があるが、同じ地球に落ちてきた男でも白人と黒人ではこうも世界感が違うものかな、などと皮肉な事まで考えてしまった。

SFには様々なカルト映画が存在するが、この映画も知られざるSFの名画としてもっと評価されるべきだ。SF映画好き、ブラック・ムービー好き、インディペンデント映画好きの方に是非お薦めしたい1本である。

ブラザー・フロム・アナザー・プラネット [DVD]

ブラザー・フロム・アナザー・プラネット [DVD]