ヴァレリーの誘惑 (監督:ミック・ギャリス)

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小説家の卵がデビュー作を書く為だけに出版社から提供されたアパートに移り住んだ主人公は、悲しい顔をした少女の亡霊を見るが…?最初はよくあるゴースト・ストーリーなのかと思って観ていたのだが、そこは原作がクライブ・バーカー、一筋縄ではいかない物語に仕上がっていた。美しい少女の亡霊と共に現れる地獄の悪鬼の如きモンスター。これが次々とアパートの住民達を屠ってゆくのだが、この悪魔と美女との対比は何か。これは”美女と野獣”などというものではなく、美女とは即ち創作をするものに閃きを与えるミューズの化身であり、悪魔とはユング精神分析に登場する”創造者のデーモン”即ち”己の想像力に振り回され現実生活を破綻させてしまうまで創作に没頭する事”の化身なのである。つまりこの物語は、創作者が自らの想像力そのものの生贄になってしまうというアレゴリーに満ちた物語なのだ。そして思いも寄らないあのラストは、創作というものに命を捧げた者が辿る皮肉な終焉を視覚化した映像として、実にユニークな出来映えとなっている。ホラーとしては怖くもなんともないが、非常に優れた寓意の込められた作品ということができるだろう。