スリザー (監督:ジェームズ・ガン 2006年 アメリカ映画 )

ええ。あの日の夜、コマしたチャンネーとアオカンしようかと森に入ったら、西の空にオレンジ色の光が見えたんですよ。光はどんどん大きくなって森の奥に吸い込まれていきました。それで私はコマしたチャンネーと一緒にその場所まで行って見たら、隕石が激突した後があり、そこからなんだかでっかいナメクジみたいなものが這い出してるじゃないですか!「こりゃなんだ?」と覗き込んだところ、ナメクジから針が飛び出し、私の胸へめり込んだ!それからなんです、私の体に異変が起こったのは。私の胸の辺りからは…ピャウ!触手のようなものがニュルニュルと…ピャウ!ピャウ!飛び出して人の肉を求め…ピャウ!ピュルル!ピャウピャウピャウッ!!ヒュグッルルルッルルッ!!!

SFホラー映画『スリザー』である。痔の薬に似たような名前のものがあったがそれはプリザSである。まあ出てくるナメクジ状の生き物は痔核に似ていなくも無いので当たらずとも遠からじといったところであろうか。なんでもスリザーとは”にょろにょろ這うもの”といったような意味らしい。何千という肉色をしたにょろにょろしたヤツが画面に登場し所狭しと這い回るのである。同じにょろにょろでもムーミン谷にいるやつとはちょっと違うが、案外親戚かもしれない。そしてそのにょろにょろは地面を這い壁をつたい部屋に忍び込みあなたの口から体の中へ進入してあなたの体を乗っ取るのだ!ウゲェーッ!キンモーッ!

往年のB級SF/ホラー映画を踏襲したようなチープかつ馬鹿馬鹿しい展開のこの映画は『マックィーンの絶対の危機/人喰いアメーバの恐怖』を即座に思い出させたし、大量のにょろにょろで圧倒させるさまは『スクワーム』を、ナメクジみたいなものが口に入るのは『ヒドゥン』を、浴槽でまどろむ女性の股間に迫るクリーチャーは『エルム街の悪夢』を、人体が乗っ取られる様子は『SF/ボディースナッチャー』を、乗っ取られた人間が群れを成して人を襲うのは『ゾンビ』を、スリザーの親玉である巨大なとろけた肉の塊みたいな怪物は『遊星からの物体X』をと、B級SF/ホラー映画のおいしい部分を上手くかっぱらった作りになっている。

だが実の所、”王道B級SFホラー”などと呼ぶにはあまりに物語がショボい上にペラペラに薄い仕上がりになっており、これはどちらかというと”Z級映画”と呼んだほうが正解かもしれない。胸を張って2007年度のブービー賞をあげてもいい位物語展開はグズグズだ。監督のジェームズ・ガンはトロマの出身だという話だから、Z級なのはしょうがないということなのか?あれこれケチを付ければきりがないのだが、登場人物誰もが魅力が無いのは痛いだろう。脚本も弱い。特にラストのご都合主義的な終わり方は、お前やる気あんのか?とまで思えてしまったぐらいだ。

オレがよく取り沙汰する”B級”な映画の魅力というのは、予算が無い分作りはチープだがサスペンスの盛り上げ方が巧い、つまりは限られた予算の中でどれだけ面白い映画にできるかという、作り手の映画に対する情熱のありかたにシンパシーを憶える映画を指すのだけれど、この『スリザー』で情熱を傾けたのはにょろにょろのVFXのみだった様な気がする。つまり、VFX以外に見所が無いのだ。先に挙げたB級映画へのオマージュであるのはよしとしても、そこからサスペンスというもののあり方、面白い映画の作り方を学んでいないのは、単なる素人の作ったファン映画の範疇を出ていないということなのではないか。

一番文句を付けたいのは日本上映版ポスターで、これはにょろにょろが登場人物の女子にからみ付いている絵なんだが、にょろにょろの色が緑色をしているのね。しかし、緑色のにょろにょろなんて映画には一回も出てこないんっすよ!それにしても、にょろにょろ触手系が女体を襲う、なんてェのは日本のエロ系アニメなんかによくありそうな設定だが、向こうの国にも触手系のマニアがいたということは、触手系というのは全ての男にとって見果てぬ夢である、という事なのかもしれない。この映画『スリザー』はにょろにょろに特化した映画という点で、決して単なる駄作だというつもりは無いのだが、むしろマニア向けの臭いがするし、全国ロードショーするのであればもっと目を向けられるべき埋もれた素晴らしいB級映画があるのではないか、などとオレなんかは思ってしまうのだ。

■Slither Trailer with Nathan Fillion - HIGH QUALITY