ベオウルフ/呪われし勇者 (監督:ロバート・ゼメキス 2007年 アメリカ映画)

■べーお。べおーおーおー。
ベオウルフ。宇宙の勇者、それはスターウルフ。こわくない、それはヴァージニア・ウルフ。シカゴ・ブルース、それはハウリング・ウルフ。狼惑星、それはギター・ウルフ。そうではなくて英文学最古の英雄譚であり、ファンタジーの源流ともなった作品と言われているのがベオウルフ、なのらしい。なぜならWikipediaにそう書いてあったからである。オレはてっきりバイキングの神話伝説かなにかだとずっと思っていた。それにしてもベオウルフ。なんか”ウルフ”とか付くと珍走団ぽくねえか。関東暴走連合邊汚卯流腐参上、とか。10代の暴走は自らを獰猛な肉食獣に例えたくなってしまうものなのである。そしてこれがひらがなで書くと「べおうるふ」となり、こっちはカラオケパブみたいな名前になってしまう。さらに愛称として「べお」なんて呼んだ日にゃあ目も当てられない。北海道弁だと「カラオケパブ”♪べおうるふ♪”に行きましょう」が「べおさいぐべお」となり、何かアルファ・ケンタウリから地球侵略に来た異星人の言葉のようになってしまうからである。

■フルCGアニメだよ!
とまあ例によって見え透いた字数稼ぎをしてやっと映画『ベオウルフ/呪われた勇者』の話題である。なんとこれ、全篇フルCGアニメなんである。どうだまいったか。だいたいもう、『全篇フルCGアニメ』と聞くと心の奥底に仕舞ったはずのトラウマが蘇り、頭痛悪寒意識混濁などの症状が現れるゲームファン・ゲーム関係者はこの日本に1000人ほどおられるに違いない。そう、あの悪名高き『ファイナルファンタジー』映画版である。あの映画以来、『全篇フルCGアニメ』というのは祟り神の代名詞のようなものであったが、喉もと過ぎればなんとやらで、その後かのスクエアエニクスはアドベントなんちゃらというファイナルファンタジーのスピンオフCGアニメをDVD販売、しかしやっぱり空虚極まりない出来であった。結局、『全篇フルCGアニメ』が悪いのではなく、単にお話として詰まらないということに誰も気付いていないのである。仏作って魂入れずとはこのことである。ではこの『べお』はどうかというと、実は最初劇場で予告篇観た時はフルCGアニメだとは全然気付かなかったのである。おおこれはひょっとして画期的かも、と期待して劇場へ足を運んだのだ。

やはり映画冒頭は殆どCGだとは気付かせない。しかし段々目が慣れてくると、やはりCGらしく見えてくる。CG使うとどうしてもやりたくなってくるのが、現実ではまず不可能な、地面から空中へ人や建物や小動物、鳥などをなめながら引いてゆくといった長回しである。これは物語世界全体を俯瞰させるといった意味では役に立つのであるが、「どうだ凄いだろ」という製作者の声が聞こえてきそうであんまり素直に喜んであげたくないのである。特に夜のシーンなら強い明暗や陰影のコントラストで誤魔化せていたグラフィックも、昼間のシーンになりオブジェ全体がよく見えるようになると、「まあこりゃCGだわな」と判るようになる。ただ、とてもよく出来ていることだけは確かである。モーションキャプチャーされた人物の動きは微妙にぎこちないことは確かだが、これも意識しなければ気にならない。人間と殆ど動きは一緒だがなんだかちょっと違う、という薄気味悪さを発見者のホラー漫画家の名前にちなみ『犬木加奈子不気味の谷』と呼んでいるが(半分嘘)、そういうことも無く、この『べお』ではCGの完成度はかなり高いと言うことは出来るだろう。

■呪われし(下半身の)勇者
物語は当たり前だが実に古典的であり、”ファンタジーの源流”なんて言われるだけあってこの手の物語の王道中の王道のものである。原作は読んだ事は無いからいったいどれだけ現代的にしているのかは定かではないが、現代人にでも十分伝わるドラマがあるのは間違いない。特に、言ってしまえばこれは”親殺し/子殺し”といったエディプス・コンプレックスの亜流バージョンとして見ることが出来るし、”怪物の母=神々の眷族”と”勇者=人間”とが交合して”鬼っ子=周縁/マージナルの存在”が生まれる、という設定も、様々な神話の中に垣間見える、いうなれば人類の集合的無意識の物語の一つと言う事が出来る。そして鬼っ子とは常にトリックスターとして社会を変革させる元になるものなのだ。つまりこの物語は、勇者=伝統的家父長制度の頂点とその子供であるトリックスターとの階級闘争であり、そして常に敗れ去るトリックスターというのは、決して揺るがない一枚岩の社会制度、不変の王国というものが当時の民衆に求められていたことの表れなのであろう。その辺がトリックスター自身が主人公であるモダン・ファンタジーとの構造の違いとはいえないだろうか。

とまあ、以上は思いつきで書いた戯言である。本気にしてもいいが、突っ込まれると返答できないので決して質問などしないように。で、映画なんだが、辺境の王国を襲う巨人グレンデルとかいうやつが、モンスターとかいうよりも単にブサイクなだけのバケモノというか、”いろいろ気の毒な人”にしか見えないのがこの映画の難である。造形としてババッチイのである。フィギュア出ても誰も買わんぞこりゃ。しかもこのバケモノが城を襲った理由と言うのが「人間達が毎晩酒飲んで騒いでうるさい」という、ある意味同情できる事柄であると同時に、怒涛のヒロイックファンタジーの物語発端としてはしょぼ過ぎねえか?と思ってしまう理由からなのである。で、この気の毒なバケモノを倒した後、勇者べおは洞窟に棲む”怪物の母”征伐に出掛けるが、色仕掛けでころっとやられちゃうんである。英雄色を好むとはよく言ったものだが、情けないのも確かである。このファンタジーは子供に見せられるかどうかと心配されている親御さんもおられるとは思うが、残酷描写がどうとか言う以前に、ヒーローは単なるスケベオヤジだった、というこのお話は、子供の夢を砕くものであろうことは一言付け加えておこう。あと勇者べおが意味も無く丸裸になって戦いたがるんだが、お前は武論尊平松伸二の『ドーベルマン刑事』かよ!?そして股間のその部分が写りそうになるといちいち別の物体が映り込んで隠したりして、おいおいゼメキス、いつからこの映画はオースティン・パワーズになったんだ!?と突っ込みたくなってしまったオレであった。

■Beowulf Trailer