ボーン・アルティメイタム (監督:ポール・グリーングラス 2007年 アメリカ映画)

ジェイソン・ボーン・シリーズ、3作目にして最終篇。ロバート・ラドラムの原作はかなり好きな作品で、『暗殺者』『殺戮のオデッセイ』『最後の暗殺者』の3部作は発売日に即購入し、むさぼるように読んでいた記憶がある。オレ角川文庫のアンケート葉書に「凄い作家だからもっと売る努力をしろ!」と書いて出した覚えがあるよ。しかし第1作が刊行された1980年当時にこれが映画化されるとは予想もしていなかった。
映画化された前2作『ボーン・アイデンティティ』『ボーン・スプレマシー』も傑作に仕上がっていたが、実は両作とも劇場はスルーしてDVDでのみの鑑賞であった。原作を知っているものとしては映画主演のマット・デイモンがどうにもこうにもイメージが合わなかったからである。原作のボーンはオレのイメージではもっと強面のオッサンだったんだが、マット・デイモンの面構えというのはどう見ても気のいい兄ちゃんというか、はっきり言ってブサ顔に見えたからである。それと、映画の雰囲気がちょっと地味目に感じてたんだね。リアリティを出すべくしてなった地味さであることは確かなんだが、スパイ・スリラー映画によくある荒唐無稽さや派手さをついつい求めてしまい、劇場に足を運ぶ気がイマイチ足りなかった。
というわけで今作をやっと劇場で観たわけなんだが、うん、これは傑作じゃないですか。1作目は記憶喪失の主人公が段々と自分は恐るべき殺人マシーンなんだ、と気付いてゆくサスペンスが良かったし、2作目は恋人を殺された主人公の復讐の物語ということで、これも鬼気迫る展開だったんだが、この3作目では主人公がCIAと敵対する凄腕の殺し屋であり、自分をこういう人間にした存在への報復を望んでいる、という動機や理由が全て判っている段階から話が始まるから、余計な説明が必要無い分、物語が非常にスマートでスピーディーに展開し、そして結末までストレートに疾走してゆくんだね。はっきり言ってこの『ボーン・アルティメイタム』は、追跡/逃亡/追跡/逃亡の繰り返しというシンプルなお話で、観るものはそこで描かれる緊迫したアクションのみに集中していればいいんだ。
まず冒頭の現実でもサービュランスが張り巡らされたイギリスでのチェイスが良い。敵役CIAは蟻の這い出る隙間も無いほど綿密に張り巡らされた電子監視網と圧倒的な情報収集力、そして冷血な工作員人海戦術でもって主人公を追い詰めてゆくが、この不可能とも思われる包囲を冷徹な思考力と行動力で全て見切って裏の裏をかいてゆく主人公の様子が実に痛快で小気味いい。なにか圧倒的な知力を持つゲームプレイヤーが対戦相手の繰り出す手をことごとく潰してゆくのを観ているような興奮があるね。有り得ないと言えば有り得ないのだろうが、あたかも全知全能の神のように先を読むボーンの一挙手一投足になにしろ驚かされる。
こんな風に、世界で最も情報戦に秀でているはずのCIAを、主人公がたった一人で次々に出し抜いていく有様がこの映画の面白さだね。お次はモロッコでの肉弾アクションが展開して物語にメリハリをつけているが、あの人込みでどうやって暗殺者と協力者を探せたんだ!?キミは「日本野鳥の会」にも所属していたのかね!?と、ここはちょっと突っ込み。しかしボーンの格闘技強すぎ!単なる殴り合いじゃない高度に技術的な格闘技に見えるんだが、あれはなんていうものなんだろう?あと世界中のどの場所にでもいつでも呼び出し可能の暗殺者を抱えている、というCIAの描かれ方がまたコワイ。そしてまた、この暗殺者達がボーンと同じく人間性を剥奪される訓練を受けた者であるということをあとで匂わす所が物語に深みを持たせている。
そしてクライマックス、自分の真の正体を知るため、そして本当の敵を叩くため、いよいよニューヨークへ戻ってくるボーン。迫力に満ち、とても斬新な冴えたカーアクションが物語を盛り上げ、胸のすくようなラストへと突っ走ってゆきます。

■The Bourne Ultimatum Trailer