映画館に行こう (その1)

■オレはこんな映画館が好きだ
映画館で席に座って映画が始まるのを待っているときが一番好きだ。このとき劇場はほどほどに空いていることが重要だ。満席の映画館で、映画が始まるのを今か今かと待ちわびているお客さんの、ざわざわとした雰囲気も高揚感があってそれはそれで悪くは無いのだけれど、半分ほども人の入っていない劇場の、妙にガラーンとした、なんだか緊張感の微塵も無い雰囲気こそが好きなのだ。
空いている劇場というのは、そこにいる人間の匂いよりも、建物それ自体の匂いがかすかにする。そしてこの映画館の匂いというのは、どこの映画館であろうと変わらない匂いがあるのだ。だからこの匂いを嗅ぐとオレは、子供の頃からよく知っている古巣に戻ってきたような、ちょっと懐かしい気持ちになるのだ。
そして映画の始まっていない劇場というのは、単なる大きな大きな箱に過ぎない。人気の少ない映画館はその大きさ広さが、その天井の高さが、倍になって伝わってくる。そんな広い広い空間に、一人ぽつねんと座っていると、ちょっと他では味わえないような、奇妙な落ち着きを感じてしまうのだ。
このとき心にあるのは映画が始まる時間だけであり、他に何も考える事なんて無い。煩わしい世間の憂さもこのときばかりは頭に存在しない。時折時計を見ながら、ただボケーッと頭を空っぽにしてみたり、買ってきたコーヒーを啜ってみたり、パンフレットを見るともなしにパラパラめくってみたりするだけだ。
映画はいつも時間通り始まるだろう。だから待っていても少しも焦れたりすることなんかない。そしてこの映画が始まるまでの時間は何にもしなくてもいいし、何も考えなくていい。そして多分そんなときが、一番幸せなのかもしれない。
多分オレは孤独というヤツが好きなんだろう。勿論女の子と見に行く映画も悪くない。でも素敵な女の子が隣にいるのなら、何もお互い2時間あまりも黙っていなければならない映画館にいるよりも、もっと他に楽しいことがあるんじゃないのかな。まあそうは言いつつ、オレと映画を観に行ってくれる女の子なんてそうそういないんだけれど。

■映画館に並ぶ
オレはいつも映画は第1回目を観る事にしている。第1回目を観る為に休みの日でも早起きするのだ。そして劇場には上映の30分以上前には着く事にしている。はっきり言って30分前なんて遅いぐらいで、時間さえ許せば1時間前に劇場前に辿り着いている。こんなことをやってるから、映画館に1番乗りなんてざらだ。でも話題作の公開初日なんていったら1時間前に来たオレよりも早く来る人がいたりする。『スター・ウォーズ エピソード1』が日本初公開された時は、オレは勇んで公開初日に行ったのだが、これがなんと早朝7時からの公開で、オレはこれに必ず座って観たかったから、なんと電車始発に乗って出かけたのだ!しかしだ!有楽町の劇場に着いてみたら、既に100人あまりの人が並んでいるではないか!?その時は自分のことは棚に上げて、お前ら一体何考えてるんだよ!?と思ったもんである。
今は全席座席指定で、その指定も1週間前から取れる、なんて劇場がざらだから、そんな無駄なことをする必要は全く無いにも関わらず、オレはやっぱり未だに朝早く起きて、朝一番に並んでいる。結局、習慣になってしまったということだな。早朝映画を観ることの利点は、全席指定になる以前なら、早朝1回目は全席自由だから、普通なら指定席である席に座れるということだった。つまりオレはどの映画も毎回指定席で観ているという訳だったのだ。あと、午前中映画を観てしまえば、休みの日の午後の時間もまるまる空いて有意義に使えるということだな。でもオレの知人には、映画は最終回に限る、と言っていたヤツもいたし、会社帰りに観る映画が一番好きだ、と言っていた知人もいたな。映画の観方は人それぞれだ。