旧怪談―耳袋より / 京極夏彦

旧(ふるい)怪談―耳袋より (幽ブックス)

旧(ふるい)怪談―耳袋より (幽ブックス)

江戸時代の巷説集「耳袋」からセレクトした怪談を、京極夏彦が若干のアレンジを加えて現代語訳したものです。「耳袋」は珍談・奇談を集めたものですが、嘘か本当かは別として、”巷で聞いた噂話”が元になっており、創作怪談とはちょっと違います。
内容は幽霊や物の怪、そして”奇妙な話”としか言いようの無い話が集められていますが、「耳袋」の奇談には鬼面人を驚かすようなショッキングなものというよりも、何か薄暮のように朧で曖昧で不確かな、それこそ「幽(かそけ)し」という語感がぴったりな世界が広がっています。この時代というのは、人と自然はより近い場所にあり、自然はまだ十分恐ろしいものであったし、人は今よりも簡単に死んだし、突然の行方不明というのも結構あったんだなあ、ということが話の向こうから透けて見えてくるんです。そしてこのような人の”生”の曖昧さ不確かさが形を変え、”怪談”となったのではないかな、とちょっと思いました。
そんなですからこの『旧怪談』自体はそれほど”怖い”お話が収められている訳ではありません。寧ろ草木のような死生観を持った江戸時代の人たちの心の中を覗く、といった部分で、この「耳袋」は意味があるのではないかと思います。ちなみにネットでもこの「耳袋」の現代語訳を手掛けているサイトがあります。
■《耳袋〜江戸の奇談・怪談・異聞・逸話》
他にも文庫版で現代語訳が出版されています。
耳袋の怪 (角川ソフィア文庫)

耳袋の怪 (角川ソフィア文庫)