絵本 四谷怪談

四谷怪談 (日本の物語絵本)

四谷怪談 (日本の物語絵本)

”お岩さん”の幽霊話で日本人なら誰もが知っている『四谷怪談』を絵本にしたものです。原作は鶴屋南北の歌舞伎『東海道四谷怪談』。これ、調べて初めて知ったんですが同じく歌舞伎の演目である『仮名手本忠臣蔵』の中で演じられていたものだったんですね。だから登場人物も重なるのだとか。つまり『四谷怪談』は実は『忠臣蔵』の番外編だったんです。さらに『東海道』は「とうかいどう」ではなく「あずまかいどう」と読むのが正しい、とされているHPもありました。実際はどうなんだろうなあ。

ところで、『四谷怪談』は何故『”東海道”四谷怪談』なのでしょうか。四谷は甲州街道にあるのに何故東海道なのか?あくまで東海道が”とうかいどう”であるとして、これを考察したHPを見つけて読んでみましたが、これが実に奥深い。

(鶴屋)南北がこの芝居の外題を「東海道四谷怪談」としたのは、その名の通り江戸と上方を結ぶ大動脈である街道「東海道」を指しているのだろうと思います。上方は赤穂(つまり、ここでは表狂言である「仮名手本忠臣蔵」の世界)、そして江戸(つまりここでは裏狂言である「四谷怪談」の世界)とをつなぐ線こそが、この芝居を読む鍵であろうと思います。
■「四谷怪談」の東と西〜南北を同時代化の発想で読む

赤穂浪士の”赤穂”は現在の兵庫県(上方)、それと雑司ヶ谷四谷町(江戸)を結ぶ線にあるものとして『”東海道”四谷怪談』というタイトルが付けられたのではないかということなんですね。

さて絵本のほうですが、御馴染みの怪談話が展開されているとはいえ、こうして襟を正して読んでみると、もう実に陰惨で血腥く救いの無いお話なんですよね。醜くおぞましい容貌に変化したお岩のグロテスクさがまず頭に浮かぶこの物語ですが、本当に醜くおぞましいのはお岩をここまで追い込んだ者達の歪んだ心根と冷血さなんですね。その自らのエゴしか省みない愚か者達が地獄を生み惨劇を生むというところで怖ろしい物語なんです。そして恨みを呑んで死んだ者の亡霊達が現れ、それがいかに呪わしい事であったのか訴える事で一層その悲惨さが浮き上がるのです。しかしこれだけどろどろとした陰湿な物語を生み出せると言うのも、日本は結構凄い国なんだなあ、などと妙な事で感心しました。

絵本ではこの怖ろしい物語を、前回『義経千本桜』で紹介した岡田嘉夫氏による華麗で美しい色彩のグラフィックで描いています。怪談物の絵本とはいえ岡田氏の絵は決して安易なグロテスクさや虚仮脅かしに陥ることなく、日本的なモチーフを大切にしつつ現代的な描線で描かれた絵により、妖しく悲しい絵画世界を作り上げます。この最後まで陰惨なものを見せない寸止めな不気味さが逆にとても美しい。

ところで青空文庫田中貢太郎版『四谷怪談』をさわりだけ読んだのですが、京極夏彦の『巷説百物語』で御馴染みの”小股潜りの又市”が登場しているんですね。京極版四谷怪談の『嗤う伊右衛門』にも確かに出ていましたが、京極キャラの客演だとばかり思っていたけれど、又市って実際に『四谷怪談』からとられたキャラだったんでしょうか。実は『東海道四谷怪談』にはその原典に元禄時代に起きた事件を集めた『四谷雑談集』という底本があり、その中に”小股潜りの又市”が登場するんですね。又市は京極の創作で作られたキャラではなかったということみたいなんですね。(書林:P11「図書館で調べもの-小股潜りの又市の正体-」(PDF))