今朝いつものように職場のボロ倉庫に仲間と車で乗り付けると、倉庫前にパトカーが何台か止まっているではないか。何が起こったんだ?と車を降りて様子を見ると、今日に限って会社の支社から現場見学に来ていたスーツ族のYが警官に挟まれ、カツアゲされた中学生みたいにヘロヘロになって冷や汗を流している。先に来ていた従業員に「何かあったの?」と訊くと、何のことは無い、倉庫のセキュリティシステムが誤作動を起こし、しかしそれがあんまりひどかったから警備会社より先に警察が駆けつけてしまい、そして倉庫の前で挙動不審にしているこのYに職務質問をしていたのである。
「な〜んだそんなことか」と本当の責任者であるオレは警察にYを任せたまま放置して、さっさと着替えることにする。そして後から来ていた警備会社の職員に「ご面倒おかけしました」と声をかけている頃には、事件性無しとみなした警察はさっさと帰った後で、何事が起こったのかわからないまま未だにおろおろしているYだけがそこに残されていた。「朝からな〜にケーサツに職質されてるんだY!」オレはヘラヘラ笑いながら青ざめた顔から滝のように汗を流しているYの肩を思い切りどついてあげた。
「いやぁあ〜びっくりしましたよぅ〜…なんかいきなり警察が来て住所とか電話番号とか生年月日まで訊いて行きましたよぅ〜…」泣きそうな顔でY。ところでこのY、会社でも”ドM”で知られており、これしきの事件なぞ彼にとっては刺身のツマ程度のことである。「生年月日か。星座を調べてお前との相性を調べたかったのに違いない」「そんな訳無いですよぅ〜…」「きっとお前の男ぶりのよさに惚れたのだろう。で、カッコイイ警察官だったか?」実はこのY、”ドM”であると同時に”ホモ野郎”であることも知られている。「ウヒョヒョヒョヒョ〜〜ッ!カッコいいだなんてェ〜!」さっきの泣きそうな表情はどこへやら、急に興奮しだすY。「で、そのカッコイイ警官に、冷たく暴力的に扱われたのか?そうか?そうなのか?」「ウヒョ!ウヒョヒョッ!いったいどういうプレイなんですかあぁ〜!」もう訳がわからない。警官に職質され、オレにからかわれ、既にYの頭の中では甘い蜜が湧き出しているようである。なんだかもうどうでもよくなり、Yをほっぽらかして仕事を始めることにするオレ。
暫くして支社からYあてに電話がかかってくる。電話を受けたオレは現場で作業見学をしているYにまわすことにする。「おいY!ケーサツから電話だ!まだ訊きたい事があるらしい!」勿論嘘である。しかしそれを聴いたY、「え゛え゛え゛え゛え゛え゛〜〜〜!」と人間とも怪鳥ともつかない奇声を張り上げながら、不気味な表情を浮かべ、事務所の電話までヨチヨチと駆けてくるではないか。その表情が恐怖なのか歓喜なのか、オレにはもう、判別が付かなかった。