ヤ○ザと電波と神様の間

ま、オレの職場にもいろんなお客さんが来るわけである。

■義眼オヤジ
その日は、家賃不払いで家具差し押さえの上立ち退きになった義眼オヤジがやってくることになっていた。差し押さえていた家具はオレの職場の倉庫に保管されていたのだが、今回執行官の許可が出て家具を引き取りに来る事になったのである。そしてこのオヤジ、今まで大工の棟梁だと聞いていたのだが、実は元ヤ○ザ屋さんだったのだという。やってきたそのオヤジは安そうなグレイのスウェット上下を着ていて、尾羽打ち枯らしたその見た目からは元ヤ○ザ屋さんとは判断し難い。一緒に来た奥さんが大変ケバかったという所でなんとなく面目が立っているかな、と言った感じではあったが。で、うちの会社のエライ人とその日も揉めていた。別室から聞こえてくる話を聞いていると、このオヤジ、なにしろ人の話を聞いていない。自分の言いたい事だけを言っている。だから協議しても何の決着も付かない。さすが一般常識の通用しない世界で生きてきた方である。あまりに見事な話のすれ違いっぷりに、不謹慎ながら笑ってしまった。「オレは警察なんか怖くないんだよ!刑務所だって何回も入ってるんだ!」などという香ばしい啖呵をナマで聴けるとは、有り難い体験をさせていただきました。

■神様の国インドからの使者
そんな元ヤ○ザの方と別室が揉めていたオレの事務所に、新しい来客が。大変スーツの似合う、三人のインド風の顔立ちの紳士である。荷物の内容を確認しに来たということだが、開口一番、「神様の国インドからやってきたお客様がいらっしゃいます」とおそろしく流暢な日本語で語る。隣室の義眼オヤジに正しい日本語とは何か、神とは、正しい行いとは何かを教えてあげて貰いたいぐらいである。どうやら二人はスリランカ人で、もう一人が”神様の国インドからやってきたお客様”ということらしい。そして部下の若いもんに荷物の場所へと案内させ、オレは自分の仕事をしていたのだが、ふと気付くと結構時間が経っているのにまだ紳士たちは帰ってこない。何をやってるんだ?と思い倉庫に行くと、件の三人の紳士はとある木箱の前に立ってなにやらやっている。蓋の開いた木箱の中を見ると、なんとこれが高さ1.5mほどの極彩色の仏像。目がパッチリしている上に色使いがかなりサイケデリック。そして三人の紳士へと目を向けると、これが三人とも手を合わせ大仏のほうへと頭を垂れて、歌うようにお祈りしているではないか。ううむ、なにやらここだけ別次元だ。この三人を遠巻きに眺めながら途方に暮れている若いもんに小声で話し掛けると、もう15分もこうしてお祈りしているのらしい。きっとさぞや有り難い仏像だったのだろう。そしてお祈りが終わったらしい三紳士は、今度は四方を向いてオレの職場のボロ倉庫にお祈りし始めたではないか。いやあ、勿体無い勿体無い…。

■電波が私を呼んでるの
こうして午前中に元ヤ○ザと神様の国インドを相手にし、軽い宿酔いの様な気分になっていたオレだが、午後は心穏やかに過ごしたい、と思っていたその午後にまた香ばしい方が訪問してくる。”霊界新聞おばちゃん”である。もともとはトラックの運ちゃんで荷物の配送をしてる人なのだが、毎月毎月自分で書いた『あ○この霊界新聞』というのもついでに配送してくれるのである。特に頼んでもいないのに届く所は恐怖新聞と似ているかもしれない。この『霊界新聞』、要するにニュー・スピリチュアル系というか、端的に言うならば”電波系”の新聞で、サタンとかチャクラとかチベット死者の書などがテーマとなっている。最新号の記事は「夫婦について」と「石原真理子のバカ女人生!」である。これらがA4の用紙に隙間無くびっちりと書かれ、彩色した達者な絵が添えられ、カラーコピーされているのである。…えー、あえて何も突っ込みません。あげつらうつもりもありません。こういう方はそっとしておくのが一番です。しかしちょっとだけ思ったが、カラーコピーで近所に配り歩くよりは、ブログでもやったほうが効果があるのではないかと。やはりこういう方こそはてなダイアリーに…いや、やっぱりイヤだ…。