7SEEDS/田村 由美

7SEEDS 10 (フラワーコミックスアルファ)

7SEEDS 10 (フラワーコミックスアルファ)

タイトルは忘れたのだが、フレッド・セイバーヘーゲンのSF短編にこういうのがあった。

何処かの星系へと向う星間移民船。そこに乗っているのは数十人の少年少女だけである。そしてその中の一人の少年だけが、何故か十年に一度コールドスリープされては目覚め、いくばくかの期間を過ごした後またコールドスリープへと戻る。だからその少年は殆ど成長しないまま、目覚める度に回りだけがどんどん成長してゆく。成長し大人になった者たちは、星間移民船の中で政治と社会と法を作り、その中で愛し合ったり憎みあったりしている。さらにそこでは生殖が禁止されている。時が過ぎ、何度目かのコールドスリープから目覚めた少年は、回りの人間達が既に歳衰え、余命幾ばくも無い者ばかりとなっている事を目撃する。荒廃し絶望にまみれつつ彼等は言う。「この歳では既に他の星に降り立つ事など有り得ない。私たちは何のためにこの船に乗っているのか?」そして少年が次のコールドスリープから目覚めた時、老人となった他の者たちは既に死に絶え、逆に見た事もない少年少女たちがコールドスリープから目覚めさせられている。そこで船のコンピューターが少年に告げる。「これまで君は人間の一生をその目で間近に見る事により、人というものがどういう性質を持ったものであるか学習したはずだ。これから君は新たなリーダーとなり、ここにいる真の移民達の子孫を新しい星へ導きたまえ。」

記憶は正確ではないがそのような話だったと思う。死に絶えてしまった老人達は、少年の学習用の教材としてだけ生かされていた存在だったのだ。これは合理性のみを突き詰めて行くことが窮極的に非人間的な論理へと辿り着いてしまう、という恐怖と冷酷さを描いたものなのだろう。

この『7SEEDS』は現在雑誌連載中で単行本が10巻まで刊行されており、未だ完結はしていない。物語は一人の少女が見知らぬ場所で見知らぬ人たちと目覚める所から始まる。彼女らが訳の判らぬまま放り出された土地は動植物の生態が異様に変化しており、そして彼女ら以外に人間の姿は全く無かった。そしてその土地で危険に満ちたサバイバルを繰り返していくうち、ある真実を知らされることになる。ここは恐るべき天災に襲われ破滅した地球であり、彼女らはその大破壊を察知した当時の政府が、破滅後の未来に人類の種として残すため秘密裏にコールドスリープさせられた者達である事を。さらにこの日本では彼女ら以外にもコールドスリープさせられているグループが幾つかあるという事も。そしてここから、仲間探しと安住の場所を求め、残された者達の日本列島を縦断する旅が始まる。

破滅的なSFビジョンと極限状態でのサバイバルを描き、楳図かずお漂流教室』、望月峯太郎ドラゴンヘッド』、さいとうたかを『サバイバル』を思わせるスケールの大きなSF作品。物語は破滅後の日本各地で目覚めた幾つかのグループが交代交代に登場し、それぞれの視点から滅亡した世界の惨状を描く群像劇となっている。それらのグループが出会い別れ、またはすんでの所ですれ違ってゆく様が非常にドラマティックに描写される。ただそこは女流漫画家のせいか、瞳の潤んだ髪の毛の豊かな少女と細面でサラサラヘアーの長身の少年が主要人物であるところがちょっと違うか。物語りも女性ならではの情緒豊かなドラマが語られ、逆にそこが良くも悪くも”甘さ”を感じさせた。

しかしこれが後半、災厄前に召集され、人類の生き残りになる為選抜された百人余りの少年少女達の章に変わった途端、物語はこれまでと違った凄惨さを見せ始める。人里離れた土地に生活し寄宿学校の中でサバイバルのための知識を学ぶ彼等は、前半の物語の少年少女たちと違い自分らの選抜されている理由を知らされている。そしてその彼等の”卒業試験”がやってきたとき彼等を待っていたのは、”最後の7人”が生き残るまで行われる血塗れの死のゲームだったのである。たった今まで仲間同士だったものが離反し反目しお互いの命を奪い合ってゆく様は、小山ゆうの『あずみ』冒頭、そして小説『バトル・ロワイヤル』を髣髴させる。そしてこの作者の持ち味である豊かな情緒性は、この章にきて詩情と非情のギリギリの狭間で爆発し、この物語を非凡な作品として結実させた。

現在単行本最新刊10巻で描かれるのは、これも人類滅亡前にシェルターに送り込まれた人々の、抗えぬ死と絶望に彩られた破滅の物語である。事故により機能が喪失したシェルターに閉じ込められ、人々は己の命のみしか省みない鬼畜と化してゆく。時間軸を行き来しながら人類の破滅と再生を描く『7SEEDS』、これからこの物語が何処へ向おうとしているのか未だ見えないが、今後の展開にちょっと目を離せなくなってきたコミックであります。(教えてくれたフエタロさんサンクス!)