Pet Shop Boys Catalogue / Chris Heath

Pet Shop Boys Catalogue

Pet Shop Boys Catalogue

世界的大ヒットメーカーのポップ・デュオ、ペット・ショップ・ボーイズのこれまでリリースされたCD、ビニール盤のジャケット、コンサートやPVのビジュアル、さらに彼らがデザインしたグリーティング&クリスマスカードなどなどのアートワークを一つに収めて発表されたファン必携のアートブック。最初のアルバムリリースから20周年を記念して製作されたものらしい。


白状するとオレはPSBの結構なマニアで、これまでリリースされた全てのアルバムと殆どのシングル、リミックスシングルを収集している。同一曲だがジャケ違いのシングルとか、プロデュースのみとかバックコーラスのみで参加の作品なども集めた。つまりそれだけ彼等の音楽が好きだということだろう。PSBとはデビュー作『Please』からの付き合いになるから、かれこれ20年は聴き続けているんだろうなあ。特に初期のアルバム『DISCO』はリリース当時毎日欠かす事無くほぼ1年に渡って聴き続けていたような気がする。


PSBのどこに惹かれたのかといえば、美しいメロディの影にある空っぽな情緒なんだろうと思う。「You are always on my mind」と歌っていても「Forever」とか歌っていても、虚ろな歌声には「でも本当はそんなもの存在しない」という空虚な感情が見え隠れする。デビューシングル『West End Girls』が”ウェストエンドは世界の果て”と歌っていたように、PSBにとって世界とはあらかじめ失われた、虚ろな存在だったんだと思う。


そしてもうひとつ、PSBは非常にスタイリッシュなアーチストであった。このアートブックで見ることのできるアートワークはお洒落ではあるが所謂ファッショナブルな連中が好むような気取った臭みがなく、シンプルでしかも楽しさに溢れている。つまりポップ=大衆的でありながら、洗練されている、ということだ。このバランス感覚が素晴らしい。もとより彼等の音楽のセンス自体がそのようなものでもあるわけだ。このポップミュージックに在りがちな押しの強い自己主張から一歩も二歩も引いた様なたたずまいと、ナイーブだが明確なコンセプチュアリィ、色彩感覚、時代感覚、PSBとは実に鋭敏な感性と知性を持った優れたポップ・アーチストであることが、このアートブックからも伺われるだろう。






■おまけ『being boring - pet shop boys
オレの最も好きなPSBのPV『being boring』。このPVの監督はアメリカの有名なファッション・カメラマン、ブルース・ウェーバー。青春の歓喜と倦怠をモノクロで描いたこの映像は、ウェーバー一流のクラシカルでボヘミア趣味のセンスが映える美しくファッショナブルな逸品です。
初っ端からメールヌードが出てきますがびっくりしないように。「僕等は決して退屈なんかしていなかった」と歌われるこの曲は、ゲイ・カルチャーについて歌ったものであると同時に、エイズ禍によってPVで描かれているようなきらめきに満ちた時代が失われてしまったことの悲しみをも歌っているのです。
『being boring』とは”ロスト・ジェネレーション〜失われた世代”を描いたアメリカの作家スコット・フィッツジェラルドの妻、ゼルダフィッツジェラルドの言葉ですが、PSBはこの言葉に「自分達もまた失われた世代である」という意味をこめているに違いありません。