《マスターズ・オブ・ホラー!③》ラリー・コーエン、ドン・コスカレリ篇

『マスターズ・オブ・ホラー』、世界のホラー映画の巨匠13人を集め、それぞれの個性で独自のホラー映画を撮らせたアメリカのテレビ・オムニバス・シリーズです。
3回目です。みんな付いて来てくれているだろうか…。今日は『ハンティング(監督:ラリー・コーエン)』、『ムーンフェイス(監督:ドン・コスカレリ)』を御送りします。


■ハンティング 監督:ラリー・コーエン (悪魔の赤ちゃん 新・死霊伝説)

ラリー・コーエンの作品は残念ながらどれも未見。『フォーン・ブース』の脚本も手掛けているらしいがこれも観てないんだよなあ。物語のほうはアメリカの片田舎、故障して立ち往生したバスから降りて次の停車地へと徒歩で向う乗客たちを次々と獲物にしてゆく殺人者…というお話。まあよくある”アメリカど田舎スラッシャーホラー”なんだが、一つ違うのが殺人者が二人いて、それぞれが最初お互いのことを知らずに殺人を起こしてゆく、という所。で、この二人が最後の獲物を仕留める為に競い合う、といった設定が新しい。これも撮り様によってはコミカルにもサスペンスを高める形にもできたろうが、その部分がもう少しメリハリあれば成功したと思うんだけどなあ。主人公の女性が結構タフだったので、この辺ちょっとしたバトルもあったりするのかな、とか思ったらそれもあまり無かったのも残念。殺人者の二人ももう少し狂気っぽくてもよかった。


■ムーンフェイス 監督:ドン・コスカレリ (ファンタズムシリーズ)

おおおっといきなりこれは傑作です。やはり”アメリカど田舎スラッシャーホラー”ではあるのですが、決定的に違うのは命を付け狙われるヒロインがかつてサバイバル訓練を受けていて、格闘やトラップ作成に秀でているというところですね。かといって無敵というわけではなく、殺人者と力が拮抗しているところに面白さがある。そういった殺人者との力比べ知恵比べが従来のスラッシャームービーと質を異にしている。さらに監督ドン・コスカレリの映像への拘りが実に素晴らしい。出し惜しみのない大判振る舞いのスプラッタ描写は痛快だし、サバイバル訓練を受けていた回想シーンと現実とのメリハリも生きている。何といっても所々に覗く独特の幻想的な描写がいい。月明かりがしゃれこうべの頭部から眼窩を透かして光線を投げかけているビジュアルなど、センスあるなあ、と思った。ドン・コスカレリがかつて監督したホラー映画『ファンタズム』もやはりファンタジックな味わいのあるホラーだったよね。さらに思いもよらない驚愕のラストシーンが実に秀逸!そうか、伏線は張ってあったのか!?展開もスピーディーでこのまま90分の映画にしても持つかなあ、と思ったが、監督は原作からあくまで40分前後の作品として想定して温めていた作品だったらしい。こういうプロフェッショナルな潔さもいい。なんだよ、ドン・コスカレリ、最近なんか新作撮ってないの!?と思ったら『プレスリーVSミイラ男』の日本公開が控えており、もうこの徹底的にナメ切ったタイトルから傑作の匂いがプンプンしており、今から楽しみであります。