虹をつかむ男 / ジェイムズ・サ−バー

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)

早川異色作家短編集第14巻。作者であるジェイムズ・サ−バーは殆ど既訳ものがないそうですが、オレも読んだのは初めて。解説では「ユーモア作家」ということが言われていますが、確かにどうにも可笑しなお話ばかりで、結構拾い物かもしれません。この短編集では25篇の極短い短編が収められています。


ジェイムズ・サ−バーの物語の登場人物はどこにでもいそうな臆病者の小市民。いつでもどこでも小ネズミみたいにびくびくし、心配性で誇大妄想、起こってもいない悲劇に絶えず怯え、ありもしない災厄を思い描いてパニックに至ります。しかもおまけにマイペース。他人の言うことを聞きません。小物のくせに頑迷頑固。自分の世界に閉じこもっていることが一番幸せ。だから登場人物が殆ど”変わり者”ばかり。世間の眼などどこ吹く風、「なんでそんなどうでもいいことに拘るの?」という彼らだけにしか判らない理解不能の行動原理に則って勝手なことばかりやらかします。他人の迷惑顧みず、とはこのこと!でも他人が迷惑しているなんてこれっぽっちも気付いていません!だって世界の中心は自分なんですから!「あー、いるいる、こんな困ったヤツいるよねー」と思わせといて「でもそれはあんたのことだよ!」と言われているようなちょっとしたこそばゆさも。あああ、なんだかオレ自分のことを言っているような気がしてきたぞ!


そんな彼らですから騒動が起こらないわけがありません。しかもなにしろ人の言うことを聞かない連中ばかりだから話が絶えずあらぬ方向に脱線しまくり、まとまる話もまとまらない。かくてあたかも「掛け合い漫才」みたいなお話が繰り広げられる、といった按配です。お話によっては「こりゃコントだろ!」なんて突っ込みたくなるものも。しかし窮鼠猫をかむ、なんてお話もあったりして、小ネズミなかなかやるな、と思わせたりします。


50年も前に書かれたアメリカの短編小説なのに、”お笑い”のツボは今でも十分通用するような気がする。大爆笑、といったものではないですが、日本の落語によく出てくる”粗忽長屋”の住人達みたいに、惚けてて人を食ったような話が沢山収められています。この他人とは思えないようなトホホな人たちの織り成すトホホなお話の数々、オレは楽しく読めました。だからオレみたいに、自分自身が”困った人間”らしい、ということを薄々感じている人には面映いながら楽しめると思いますが、品行方正で生真面目な方が読むと「なんだか不愉快な人間ばっかり!」と腹が立ってくるかもしれません。でもまあ生暖かく見守ってあげてください、それに、このぐらいドタバタしてるほうが、人間臭いと思いませんか?


それと作者の手による挿絵が各篇に入れられていますが、これは下手の横好きのご愛嬌と見てやったほうがいいかと…。