イリアム / ダン・シモンズ

イリアム (海外SFノヴェルズ)

イリアム (海外SFノヴェルズ)

やっと読み終わりました『イリアム』!長かったなあ…でも面白かったです!!
まずダン・シモンズの『ハイペリオン』を読んで面白かった方なら文句無くお薦めします。というか読みなさい。ダン・シモンズ読んだことのない方もやっぱりお読みなさい。きっと格別のSF娯楽作として楽しむことが出来るでしょう。
しかしくどいようですが本当に長い、厚い。解説も含めハードカバーで活字2段組782ページ、本の厚さは5cmはあります。しかもこの『イリアム』、これだけで終わっておらず、続く『オリュンポス』という長編の前編、という体裁なんです。
さてこの『イリアム』に関しては『面白かった!』とただそれだけを言ってしまえば後はいらないと思ってます。これだけ楽しめたんだから野暮な批評も分析もしたくありません。ただ、興味のある方、これから読もうとしている方にネタバレにならない程度に読みどころを紹介していきたいと思います。


以前も触れましたが、『イリアム』は3つの物語が平行して語られます。

A イリアム 紀元前12世紀頃…トロイア戦争における、人間の軍勢と神々入り乱れての合戦譚
B 地球 いまから数千年後…未来の地球で飼い殺しにされている旧人類の、真理探究の物語
C 火星 いまから数千年後…火星の量子攪乱を調査しにきた、木星系半生物機械の冒険物語

それぞれについて触れてみましょう。


A.イリアム
トロイア戦争のパートでは神々を名乗る存在が操るハイテクノロジーと戦争の観察者として20世紀から蘇生させられた男の存在から、ここが実際に歴史上の紀元前12世紀なのか?どこかの未来世界に再現されたバーチャルなトロイア戦争なのか?という謎があります。そしてこの神は何者なのか?観察者は何故存在しているのか?などなど、このパートは実に謎が多いのですが、実は3つのパートの中で一番血湧き肉躍るパートとなっています。なにしろトロイア戦争の合戦の描写を戦争好きのシモンズが水を得た魚のように描いているからです。物語の中心たる舞台はこのパートなのでしょう。


B.地球
今から数千年後の遠未来、地球には一握りの人間しか住んでおらず、彼らは高度なテクノロジーの中にありながらその仕組みも世界の成り立ちも興味を持つことなく、パーティーを繰り返すだけの無為な生活を送っています。しかも100歳を超えると延命治療を中止され、消滅させられる運命にあります。そんな彼らを管理しているはずの”ポスト・ヒューマン”なる存在は既に無く、何故地球から消えたのかは定かではありません。さらにかつて「ルビコン禍」なる大惨事により相当数の人類が命を失ったらしいのですが具体的にはあまり語られません。このパートでは登場人物たちが地球の様々な世界を巡り数々の忘れられたテクノロジーに触れていきますが、この目くるめくような未来描写がこのパートの読み所でしょう。文章の感触は『エンディミオン』あたりとかなり近いです。


C.火星 
木星探査・開発の為にかの地に送られた木星系半生物機械たちは人類とのコンタクトを絶たれ既に数世紀が経ち、独自の進化を遂げていました。しかしある日火星での量子撹乱を観測した彼らは、その調査とある極秘の任務を数体の半生物機械に担い、火星へと旅立たせます。シェイクスピアプルーストなど地球の古典文学を語りあう半生物機械というのがとても可愛らしいです。彼らの語る文学論議は最初ちょっと退屈だったのですが、これが後々物語に絡んでくるとは…。そして火星に到着してまもなく彼らは大きな波乱に巻き込まれます。


さて読み進めながら思ったのは、
・3つの物語の時間軸は共通なのか?
・3つの物語はいつ、どのように絡み合っていくのか?
・物語はどのような結末を目指しているのか?
という所でしょう。これこそが『イリアム』の読みどころだと思います。これらは中盤を過ぎても謎のままであり、あとは読んでのお楽しみです。


全体的に行き当たりばったりな展開もあり、ちょっと御都合主義かな、と思う部分もありましたが、『エンディミオン』あたりもそんな雰囲気でしたけれどあれほどダレることはありません。この辺はノリの良さで飛ばしているので気にしなければ大丈夫。やはり物語3分の2を過ぎた頃の矢継ぎ早な急展開はページを捲る間も惜しくなることでしょう。
そして、物語は『ハイペリオン』の如く広げられるだけの大風呂敷を広げ、驚くべき稀有壮大なテーマをぶち上げたまま”次回へ続く!!”とばかりにラストを迎えます!ああなんともじれったい!『オリュンポス』よ早く出てくれ!
ちなみに今回もこの重いハードカバーを持ち歩き、殆どを通勤電車で読みました!片手で持ってな!これぞ『イリアム』エクササイズ!夏の体力づくりにあなたも『イリアム』をどうぞ!
そういえばはてダを読んでいたら、この『イリアム』を読むためにホメロスの『イリアス』を先に読んでます、というツワモノな方がいらっしゃいましたが、オレは映画『トロイ』を見てたからそれでいい事にしました…。だからでしょうか、小説内のアキレスは頭の中で全てブラッド・ピットに 変換されていました…。