N島の名前

「ウンチN島」はT社のN島係長のニックネームである。元モデルの嫁を貰い、高級ブランドのスーツを颯爽と着こなし、高級腕時計と高級外車を所有し、休日には高級サーフィンと高級テニスに勤しむ高級パワービジネスマンの彼(かなり脚色)が何故「ウンチ」などと呼ばれるようになったか。それは彼から送られてきた一枚のファックスから始まる。


オレ宛に送られてきたそのファックスにはいつものように業務の指示が書かれていた。それを読んでいたオレはふとあることに気付いた。そこに書かれていた下手糞なアブストラクトな手書きの文章、「〜の為、」の「為」の字がくるくるととぐろをまいた曲線にしか見えなかったのだ。そしてその曲線は、どちらかというと「ウンチ」の絵に見えたのである。


「なんだ、これはウンチじゃないか。」オレは早速その書類の「為」の字の横にウンチの絵を書き加え、T社のN島係長の下へファックスで返送したのである。


そして次の日、N島係長から再び送られてきたファックスには、今度は堂々とウンチの絵が描かれているではないか。しかもただのウンチではない。パッチリした瞳には長い睫が生え、星まで輝いている始末だ。にっこりと微笑むその口元は、ウンチでなくて何かのイメージキャラクターを髣髴させる。おまけにその可愛らしいウンチの頭上には、ご丁寧にも一匹の巨大な蝿がブンブンと旋回しているという念の入れよう。どうも彼も気に入ってくれたらしい。


それからというもの、オレとN島係長のやり取りするファックスには、必ず書類のどこか隅にさり気無くウンチの絵が描かれるようになったのである。男同士の絆を確かめる、さり気無い暗号である。


ある日、そのことを電話でN島と話した。
「あれな。」
「あれね。」
「ウンチだな。」
「ウンチだね。」
「ウンチの絵が上手いな、N島。」
「そうかい?」
「あんな素敵なウンチの絵はそうそう見られないよ。」
「ありがとう。」
「それでな、今日から君を”ウンチN島”と呼ぼうと考えてるんだが。」
「ウンチN島…。」
「妙に語呂がよくないか。」
「確かに…。」
「そういう名前のお笑いがいてもおかしくないぐらいだ。」
「いそうだな…。」
「と言う訳で今日から君は”ウンチN島”。ヨロシク!」
「うううう〜。」
…そういった経緯でT社のハンサムガイ、N島君は”ウンチ”と呼ばれるようになってしまったのである。


教訓:いい大人が何やってんだ!