顕微鏡とオレ

子供の頃の話。
まだ4,5歳だった頃、ガキのオレの将来の夢はなななんと「科学者になること」だった。…ゼイゼイ…大きく出たなあ、オレ。
親が顕微鏡買ってくれたんですがこれがメッチャ面白かった。見知ったありふれたものが、顕微鏡のレンズの下では万華鏡の映像のように虹色に輝いて見えた。それは現実離れした幻想的な世界だった。プレパラートの扱いが旨い幼稚園児だったのですよ!ありとあらゆるものを挟んで見た。…まあ、幼稚園児なんでね、鼻くそとかも見てましたが…。
幼稚園のお絵かきで「将来の夢」なんて描かされるじゃないですか。ほかの園児がバスの運転手とかお嫁さんとか描いている中、たった一人白衣を着て標本に取り囲まれ、顕微鏡を覗く自分の絵を描いてましたね。へー、凄えじゃん、オレ。
そしてそのうち、普通の顕微鏡じゃ飽き足らなくなってきたんですね。「もっと大きくならないのか?」と思って。で、親に訊いたら、世の中には電子顕微鏡と云うものがあるらしい。よくわかんないけど、物凄いらしい。見たい。電子な顕微鏡の世界を。だから誕生日やクリスマスのプレゼント、何がいい?って親に訊かれたら「電子顕微鏡!」と答えていたガキでした。でも、あれは物凄く大きな機械で、大学とか研究所じゃなきゃ置けないんだよ、と親に言われてがっかりしたな。そして、本で電子顕微鏡写真を探してみたら、これが白黒で幾何学的で無味乾燥な画像なもんですから、さらにがっかりした。そんなもんでオレの科学熱は急速に冷めてしまったのですが、もしあの時見た電子顕微鏡写真というものがもっとファンタジックでサイケデリックなものだったら、オレもうちょっとディープに科学な人間だったろうなあ、と惜しまれます。
その後小学校にあがったオレの将来の夢は…マンガ家でした…。あまりの落差に親泣いてましたね…。なんか自分の人生に「オチ」を作ってしまうサガはガキの頃からあったんですね…。あ、今は、ガテン系の仕事です、はい…。