そっくり

一般にハリウッド俳優に似てるなんぞといったらそりゃあ美男美女とでもなるのだろうが実際どうなのであろうか。例えば今をときめくジョニー・ディップ、例えば彼にそっくりの男が居たとしよう。しかし彼は珍走団の一員でヘアスタイルはバリバリのパンチパーマ、眉毛は剃り落とし、おまけに前歯が欠けている、さらにベタベタの博多弁。だがそれでもジョニー・ディップそっくりだとしたら、それはいかほどのものなのだろう。
ジョニー・ディップならまだよい。これがスティーブ・ブシェミ似の先輩などだったらどうしよう。あのガチャ目で仕事中、もしくは授業中、意味も無くチラ見なんぞされたらイラついてしょうがないような気がする。もしくはダニー・デビート似の上司だったらどうしよう。あれに甲高い声でガミガミいわれなんぞしたら絞め殺してやりたくなるところだ。やはりそれはちょっといかがなものかと思うではないか。
実はオレの近所にクリストファー・ウォーケン似の親父が営む酒屋があるのである。なにしろクリストファー・ウォーケンである。顔つきが貧相なのである。幽気漂わせているんである。店に入ってこのウォーケン親父に「いらっしゃ〜い…」などと墓場から響いてくるようなしゃがれ声で言われると、酒屋ではなく葬儀屋に来たような気分にさえなってしまう。不吉なのである。生気を吸い取られそうなのである。店内は親父の趣味なのかいつも薄暗く、店の隅には鬼火さえ飛んでいそうだ。
ただ単に暗い親父ならまあそんな人もいるし、と大して気にも留めないのだが、なにしろ相手はクリストファー・ウォーケンなのだ。『デッドゾーン』『ディアハンター』『スリーピー・ホロウ』『007/美しき獲物たち』とハリウッド映画の幾多の陰気な役柄をこなしてきた男なのである。陰気さにかけては世界一、向かう所敵なしの陰気の帝王のような男なのである。そんな強キャラがご近所ではあるのだが、なんともいえないビミョーさは拭いきれないものがあるな…。