ダークハーフ、そしてちょっとだけロメロ論

ダーク・ハーフ [DVD]

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キング原作でロメロと言えば「ダークハーフ」。ある作家が自身の創作したバイオレンス・ヒーローに命を脅かされ…という作品だが、ここでロメロは監督・脚本・製作総指揮まで担当、映画を完成させている。その仕上がりは実に原作に忠実で、むしろ原作に隷属しているかのようにさえ感じる。丁寧なんだが、地味なんだ。これは例の「バイオハザード」の脚本を下ろされた時もそうだったみたいで、やはりゲームのストーリーを忠実になぞった脚本だったのらしいが、その膨らみの無さから却下されたのだという。
結局、ロメロって真面目なヒトなんだなあ、と思う。ハリウッドで干された恨みを『URAMI』という作品で噴出させているけれど、ハリウッド的な派手さ、粉飾、煽情主義が彼には欠けているのだ。だからこそハリウッド式の映画が彼には作れず、結果的に作品製作に恵まれなかったのではないか。それと、家族主義的な彼の映画制作の態度が、そぐわなかったこともあると思う。その彼の真面目さや頑固さは、いわゆるアメリカのカウンターカルチャー世代のものなのだろう。そしてだからこそ彼はホラーという名のアナーキーな表現ジャンルを選んだのだろう。しかし逆にその政治的アイデンティティを容易に転向させることが出来ないという不器用さが、彼の不遇を生んだのではないか。
しかし『ダークハーフ』はどんなスタッフで作られたのかは判らないけれど、セットや配役には非常に細やかなリアリティを感じることが出来る。そして破綻が少ない。スピルバーグの映画でさえ感じる「張りぼて感」が、彼には無いんだ。これは細部へのロメロの拘りが徹底しているのだからだと思う。この細やかさが、『ゾンビ』という完全無欠のホラー映画を生み出した元なのだろう。そして描かなければならないものはきちんと描く。この『ダークハーフ』で目を見張るのは、物語の鍵を握る数千羽を超えると思われる雀たちの乱舞だ。これ、CGも使っていたかもしれないが、殆どは調教した本物の雀だったんじゃないかな。なにしろ、この尋常ではない雀の数が、怖い。そして、凄い。こういった有無を言わせぬ演出が出来るところが、またロメロの面白さでもある。
URAMI 怨み [DVD]

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