MAESTRO

MAESTRO マエストロ [DVD]

MAESTRO マエストロ [DVD]

先日OSTを紹介した映画「マエストロ」のその本編。この映画ではNYの伝説的なクラブ「パラダイス・ガラージ」が何故どのように特別だったのか?革新的だったのか?そしてこのクラブのレジデントDJ、ラリー・レヴァン(故人)がいかに優れ超人的なプレイをしていたのか、そのカリスマ性と魅力に迫り、さらにこの「パラダイス」がどのように終焉を迎えたのか、かつての関係者やDJ達のインタビューを中心に、1977年秋にオープンし、当時のクラブカルチャーの震源地でもあった「パラダイス・ガラージ」の全貌を明らかにしたドキュメンタリー。
ただ、映画の中では殆どラリー・レヴァンのスチール写真が映し出されるだけで、彼が実際のDJしている映像は極僅かであり、クラブ「パラダイス・ガラージ」の映像にしてもそれほど豊富にあるわけではない。そこの所が非常に残念だ。多分映像自体が現存していないのであろう。
ラリー・レヴァンのプレイには「ドラマ」があった、とインタビューを受けた人達は口々に言う。今ではクラブDJでは常識的なプレイのあり方だろうけれど、こうしたDJの流れを作った先駆けだったのだろう。また、「パラダイス・ガラージ」はPA、スピーカーの設置方法において革新的なサウンド・システムを確立し、それをクラブ・サウンドの標準形としたクラブでもあった。1979年、80年にはビルボード誌のベスト・クラブ、ベスト・サウンド・システムにも選ばれている。
しかし惜しむべきことに「パラダイス・ガラージ」のオーナー、マイケル・ブロディはエイズで夭折しそれと共にこのクラブの歴史も終焉を向かえる。時を前後したこのエイズの猛威が、盛り上がりつつあったゲイ・カルチャー、ひいては新たな人間同士の関係のあり方を揺籃しつつあった文化そのものを壊滅させてしまった。映画の最後でのDJフランソア・ケヴォーキアンの言葉が衝撃的だ。彼は60人の友人を亡くしたのだという。この恐るべき喪失には言葉も無い。
映画ではやはりエイズで亡くなったポップアーチスト、キース・ヘリングが生前「パラダイス・ガラージ」で楽しむ姿を見る事ができる。また、故アンディ・ウォーホールがクラブに来訪したいきさつなどもインタビューで語られている。そして、ラリー・レヴァン自身は、心臓麻痺により1992年に他界している。このように音楽とアートとの幸福な蜜月時代が「パラダイス・ガラージ」には存在していた。それらは全て過ぎ去り消え去ってしまったけれど、彼らが残した遺産は、その魂は、今でもクラブ・カルチャーの中に生き続けているのである。