「蟲たちの家」

蟲たちの家 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 3)

蟲たちの家 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 3)

楳図は怪物や異形と化したものを多く描くが、もうひとつ得意とする分野が、「異形と化した精神」、暗い情念を抱え込んだ人間達の悲劇である。
嫉妬、傲慢、強欲、姦淫…ここではあたかも「七つの大罪」の如く人間の悪徳を描く。しかし楳図は神の視点からそれを断罪する訳ではない。肯定でも否定でもない。人間は誰もがその精神の暗部にこのような情念を抱えうるものであり、そして大なり小なり不幸な存在なのだ。よかれと思ってやっていることが実は当人の傲慢の産物なのかもしれない。幸せになりたいというありふれた欲望が結局はまわりに亀裂と不幸を呼んでいるのかもしれない。人間はこのようにただ罪深い存在であり、それを楳図は救いようの無い悲劇として描く。その結末はどれも物悲しい。
楳図が描く人間の業は、耐えられないほど生々しくドロドロとしているけれど、しかし同時に、生への強い強い執着が感じられてならない。つまりは生きて行くということは、このような醜い執着心を持ち続ける事なのだ、と楳図は思っているのかもしれない。そして、どんなに醜くても業が深い事であろうとも、人間は生き続けなければならない。だから楳図の描く「人間の情念」は、これほどまでに悲しいのだ。