マッドマックス・サーガ!

巷ではスター・ウォーズ・サーガが大団円という事で盛り上がっているが、もうひとつのサーガを忘れてはいないだろうか。LOTR?チッチッチッ。インディ・ジョーンズ、ダイハード、どれも惜しい。もう一つのサーガ、それは「マッドマックス」である。
マッドマックス、「1」は1979年、「2」が1981年、「3」は1985年製作。現在「4」であるMad Max: Fury Roadが製作される予定であるが、どうもいろいろあって頓挫している模様。「1」から主演を務めたメル・ギブソン出世作ではあるが、もういい歳のはずで、「4」でまたぞろインターセプターで暴走しまくるのであろうか。初老の暴走族。ある意味カッコいいと言えばカッコいいが…。

■マッドマックス

「1」はオレとしては今観てそれほど面白いかどうかはなんとも。恐るべき低予算である事がひしひしと伝わってくる出来で、なにしろ警察署は「荒れ果てた近未来」だから荒れ果てた廃工場みたいな所でロケしてる!しかしこの半ば廃虚と化した警察署、というのもまたいい。オレは車の事は判らないのだが、殆どの予算は車とバイクに使われた模様。車・バイク好きには公開当時圧倒的な支持を得たらしい。お話は単純に言えば復讐劇。暴走族に女房子供を殺されたマックスの怒りの追撃が始まる!ということなのだが、もとよりヌルイ愛情生活描写はどうでもよくて、だから奥さん殺される(実際死んでなかったみたいだけど)シーンもあっさりしているし、特に感情移入もしなかったのだオレは。結局、この映画のプロットは、暴力と暴走の理由が欲しいだけなのだ。そして、復讐の暴力と暴走のカタルシスにさえ酔えればこの映画は成功しているのだ。悪役のキモさと凶悪さは最高。スタントマンは三人死んでるらしい。

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■マッドマックス2

「2」はこの連作の中でも最高の出来、そしてバイオレンス映画の金字塔とも言えるだろう。なにしろ圧倒的なスピード感(ストーリーも車の速さも!)、無慈悲で徹底的な暴力、情緒の挟み込む余地の無い乾ききった人間描写、そしてなにより、それまで誰も見た事の無いグロテスクかつ壊れたカーデザイン、土俗と化そうとしている衣装。世界には廃虚さえ無い、なぜなら全ては崩壊し、もはや痕跡すら残らないほど完膚なきまでに滅亡したのだから。この世界で最も価値のあるものが「燃料」だ、という設定もナイス。ここでもなお一層狂気のほどを増した悪役達の、もはや文明とはなんの関係も無くなったケダモノぶりがよいわ!なにしろ「荒野」と呼ぶ以外何物でも無い大地と、無限とも思えるほど延びる道をひたすら加速してゆくマシンの様は、もはや宗教的な恍惚感にさえ満ちている。そしてシリーズ中最も虚無的な、ヒーロー・マックスの描写!あの、深い余韻を残す鮮やかなラスト!

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■マッドマックス サンダードーム

「3」、「マッドマックス サンダードーム」ではとうとう文明は石器時代まで退行している。ここではテクノロジーを所有し行使できるもののみが特権階級として生きられ、そして生存の確率も高い。ところでこの「3」は物語半ばで突然それまでのコンセプトを放棄し、希望の物語として変節する。それは生き残った子供たちの存在を中心に語られ始めるからだ。ファンにはここが受けが悪い。確かにこれまでの物語からしてみれば、このヒューマニズムは甘くそしてダルい。しかしだ。前作と同じプロットで進んでしまえば、所詮前作の焼き直しでしかなかったのだ。さらなる暴力のインフレーションを描くには、この世界は既にあまりにも枯渇し切っている。だって、燃料も、弾丸も、もう殆ど残って無いんだぜ。それと共に、監督のジョージ・ミラーは、この世界観に多分飽きてきていたのではないか?これは彼のその後の監督作品を見れば判る。「ロレンツォのオイル」?「ベイブ」?立派なヒューマニズム映画じゃないか!ジョージ・ミラーは、徹底的な暴力の果てに、反動的に人間回帰へと目覚めてしまったに違いない。ま、オレは興味ないけど。ヒューマニズムに目覚めると人間つまんなくなるといういい例である。しかし、ひとつの変節の瞬間を映画の中で観る事はある種興味深い。だからこの作品自体は悪い出来では無いと思う。

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全体的に言える事は、実はマッドマックスという映画は西部劇なんだということだ。無法の町、非道の悪役、為す術も無い住民、ニヒルな主人公。そして、ガンと馬=車、果てしない荒野!未来が設定なのはSFなんじゃなくそのほうが世界観が自由に出来るからだ。暴力が暴力を生み、正義は自らの中にしか存在せず、そしてその正義の執行は私刑によってのみ成就する。さらにそこには現実と一切関わりの無い世界である事が重要なんだ。なぜなら暴力に社会的な背景や因子を付加すると意味的になるからだ。殺られる前に殺るのだ。生き延びる為に全ての暴力は正当化されるのだ。高純度に抽出されたスピードと暴力の快感、それが、マッドマックスの世界である。
というわけなのだがこれほどの作品なんだから特典映像満載のDTSスペシャル・エディション三枚組とか出せ出せ出さぬか!取り合えずオレは買います。