LORETTA LUX

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子供を可愛いとは思わない。可愛くないとも思わない。子供を見て愛しくなる感情があるのなら、それは生き物としてそう条件付けられているからで、だからオレは自分の、人間的な情動を信じない。なぜなら情動はあまりに揺れが激しく、そして不確定だからだ。
愛情というものがあるのだとすれば、それは本当は仕事のようなもののような気がする。不確定な情動で成し得るものではない。愛情は、日々怠り無く精進し、育まなくてはならない。種を蒔き、水をあげ、注意深く守り、豊かに実る事を祈るのだ。そうか、愛情とは、祈りだったのか。
子供は無垢ではない。子供は半分けだもので、半分人間で、そしてどちらも不完全でしかない。だから大人は子供を育て導き、子供が大人になれる様手助けをする。しかしだ。大人になってから思う。大人になり完全なものになったはずなのに、なぜ世界はこんなにも辛くつまらない事が多いのだろう。自分一人では手に負えないような、手に余るような事ばかりなのだろう。全ての事が迷宮のように複雑になり、全ての事がどんどんばらばらになってゆく。そして、その時人は世界がそうではなかった時代を夢想する。子供は無垢ではない。それは、人が自らが求める無垢を子供に夢想したものなのだ。
ロレッタ・ラックスはドイツの女性カメラマン。彼女が写すモデルはガラス細工のように透き通った目をした子供達。しかしその子供たちの浮かべる表情は可愛らしさというよりもむしろ畏れ多くさえ感じるような神々しさだ。真っ白いページのような侵すべからざる無垢。そこには大人に成ってしまった人間が自らの感傷を投影する余地すらない。それはなにか新種の生き物か、あるいは神聖な領域に住まう神の眷属のようだ。
奇妙なポーズをとったまま時を止めた子供たちの姿と、くっきりとピントが合っているにも拘らず現実感の消失した背景。その幻想的なまでの美しさはなにか宗教画を見せられているような畏敬をかきたてる。

LORETTA LUX 公式サイト : http://www.lorettalux.de/