廃虚としての日常 / 東京するめクラブ 地球のはぐれ方 その2

東京するめクラブ 地球のはぐれ方

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2回目です。今回は(やっと)内容を紹介します。

●魔都、名古屋に挑む

「馬鹿にしてないよ」と言いつつ、村上は絶対名古屋を馬鹿にしている。結婚式などの名古屋独特の俗習、名古屋独特の食文化、名古屋の広すぎる街並み、どれも十分に異質な感じがして、日本の各大都市と比べても抜きん出た独特さを醸し出している。オレの日記を読んでいる方に名古屋の方がいらっしゃるかどうか分からないけれど、少なくともこの本の文章を読んで名古屋に行ってみたいとか名古屋で暮らしたいとは思わないもの。この本のコンセプトの「ゆるさ」が強力に伝わってくる一章。

●62万ドルの夜景もまた楽し――熱海

ここでは既に熱海は「廃虚」扱い。熱海秘宝館からもう「ゆるさ」大爆発。平易に書かれているけれど「熱海はやる気がない」とはっきり言い切る。でも熱海の町外れには「風雲文庫」なる個人博物館があるらしいんだけど、なんと、ここは、ナチスドイツ関連の遺物、そしてアドルフ・ヒトラーの遺品と言われる展示物が大量に蔵置され、ファシズム礼賛と偏愛が謳われる恐るべき博物館なのだという。これの記述はちょっとポイント高い。

●このゆるさがとってもたまらない――ハワイ

人工楽園ハワイ。実質日本の一部と化したハワイ。逆に日本人入植者がどのようにハワイを変えたかが伝えられるレポートは興味深い。アロハシャツって日本人が生み出したものなんだってね!日本人入植者が使い道の無くなった和服の晴れ着を半袖シャツに下ろしたのが起源なんだとか。アロハシャツの派手なプリントは晴れ着の意匠が元になっているんだとか。あと村上のホノルルマラソンについての観光誘致としての側面を書いた苦い文章が記憶に残る。

●誰も(たぶん)知らない江の島

多分この本の中で唯一「行って見てもいいかも」と思わせた土地江の島。調べたらオレの近所の駅から電車で一時間あまりで行ける。(でも本当に行く事はありまシェン)交通は不便だとか商店街は雨になると閉めちゃうとか坂だらけで散策に体力がいるとか猫の多い町だとか、例によって脱力しまくってますが、天然の洞窟を使った岩風呂とか有形文化財に指定されたと言うローマ風呂って一回見てみたいような。いや、本当に行きはしないけど。

●ああ、サハリンの灯は遠く

サハリンは現在ロシア領であり、旧日本領・樺太のことです。オレの実家の北海道の街から海峡一つ超えた場所にあり、晴れた日は水平線の向こうにその存在を確認する事が出来ます。この本では村上は自分の興味があった土地についての文章が冴えていて、このサハリン篇ではチェーホフの紀行文まで引用しながらサハリンの荒野に想いを馳せます。自然としてのサハリンは荒々しく雄大で、その風景には息を呑むものがあるようですが、町としてのサハリンはなにしろダメダメなのらしい。中央集権下の官僚主義が未だに色濃く残ったまま「ロシアの最果ての地」として放置されている土地で暮らすという事はどういうことを意味するのか。しかし、ここでも韓国人入植者が逞しく生きているという文章に救われる。あと大きな花咲きガニが手掴みで獲れるのだという!しかもロシア人は足しか食わないんだって!ひえぇぇぇっ!トドの居留地のリポートは圧巻。サハリン篇はこの本の中でハイライトだと思う。

清里――夢のひとつのどんづまり

80年代バブル時代の中産階級の夢と幻想が結実しそのまま行き詰ったもうひとつの廃虚、清里。あの頃の中流という連中が竹下通りの衛星都市みたいなところで暮らすのが夢だったという薄っぺらさが今の清里の凋落ぶりなんだろう。この本の中で一番どうでもいい町だなこりゃ。「やまね」という天然記念物種が生息しているのだそうです。農業はきちんとしているらしく、そういった方面で再生したら?という前向きな意見がナイス。

●あとがき

都築響一氏のあとがきがいい。「急いでるからとか、今度またとか、自分に言い訳はいくらでもできるけれど、そこであえてジャンプするかどうかで、人生が(失敗に多いけれど)発見に満ちたものになるのか、安全で退屈なものになるのかの分かれ目がある」「幸せの敷居を低くするのが、人生をハッピーに生きるコツなのかも」など、いちいち頷いて読んでしまった。まあオレの敷居は低すぎるけどな…。オレは他人から見ればいつも楽しそうに見えるらしいがな、それはオレが自分の人生にたいしたものを望んでないからであります。いや、素敵な女子との出会いとかあればもっとええとむにゃむにゃ(強引に終了)。