デビッド・ボウイ・リバイバル その1

最近オレの中ではデビッド・ボウイリバイバル中である。
ボウイの音楽と出会ったは本当にロックの聴き始め、14歳か15歳ぐらいの時であった。とっかかりは単に「ロックでSFをやってる人」ということだけであった。その時買ったアルバムが「ダイヤモンドの犬」ジョージ・オーウェルの近未来小説「1984年」をモチーフにしたコンセプト・アルバムであった。下半身が犬になったボウイのグロテスクなイラストが印象深かった。この風変わりなアーチストが気になったオレは取り合えず彼の最も評判によいアルバムを買ってみる。それが「スティション・トゥ・スティション」。このアルバムは実はボウイの全キャリアの中でも最高傑作という評価もあり、ひいていえば、20世紀を代表する最も重要なロック・アーチストに選ばれた事があるボウイの、最も重要なアルバムに、物心も付かないガキの頃のオレは、出会ってしまったのである。
あれから、30年弱。途中でブランクもあったとはいえ、一人のアーチストの表現と、ここまで付き合ってきているのはオレの人生の中でボウイだけである。そして、オレも凄いが、60歳になろうとしているのにまだまだ現役のボウイという人が凄まじい。
実はボウイのアルバム中最も評価が高いのは「ジギー・スターダスト」という事になっており、アルバムのどの曲もシングルヒット間違い無しの完成度で、ロックンロール・ミュージックとしては例えばビートルズのSGT.ペパーズとかレッド・ゼッペリンのⅢとかと並べてロック・アルバムの殿堂入りさせて当然のアルバムだし、オレも大好きなアルバムではあるが、まとまりが良過ぎて逆にボウイらしくないんだよね。
それと、「ジギースターダスト」はいい曲がありすぎてベストアルバムを編集すると一番重要な曲、オープニングの「5年間」とラストの「ロックンロールの自殺者」がこぼれ落ちてしまう。この2曲を聴かずにボウイ理解など出来ないので、興味の沸いた人はぜひアルバムを買って通しで聞いてほしい。ちなみに「5年間」とは世界があと5年で終わると知ったある日の事を歌ったものだ。今まで何気なく見過ごしていた街の、あらゆる情景が、急に鮮烈なものとして目に映る様を描いた歌詞が美しい。そして「ロックンロールの自殺者」では群集でありながら孤独な個でしかないロック・ファンとロック・スターとの関係を歌ったものだが、ボウイの曲にしてはストレートで感動的だ。「君は一人じゃない 君は素晴らしい だから 僕に手を差し伸べて」と繰り返されるラストは、ロックとロック・ショーのあり方自体を歌ったものに思え、そもそも、ロックとは孤独な魂の為の音楽だったのだな、と思わせる。名曲である。勿論アルバムのほかの曲も…ああこんな書き方してるとボウイ全曲解説になっちまうわい!
例えば初期のボウイのアルバムで一枚薦めてください、と言われたら「ジギー・スターダスト」の後に出した「アラディン・セイン」を薦める。ハードなギターリフが爪弾かれたかと思えば次には繊細なピアノの音色が響き、そして歌われる歌詞は「デトロイトのパニック」や「気の狂った俳優」であり、退廃的な娼婦の歌「レディー・グリーニング・ソウル」であり、倦んだ恋人達の「ドライブインの土曜日」だった。ストレートなロックンロールと不安定でエキセントリックな曲が混在する、どこか混沌とした選曲。これがボウイの世界なんだと思う。そしてなによりも、アルバムのハイライト、ピアノのソロから始まる曲「タイム」があまりにも素晴らしい。
僕は沢山の夢を持っていた
僕は沢山の事を成し遂げてきた
しかし愛する君よ、
君は 愛のせいで夢を失ってしまったんだよ
夢への扉は閉ざされ、
君は夢の無い庭園にいる。
多分君は微笑んでいるのだろう、
この暗闇越しに。
でも、僕が君にあげる事ができるのは
夢を見るということの罰だけなんだ。
"TIME" David Bowie
実はボウイの歌詞は難解だ。この「タイム」の歌詞も「夢」とは何を指し「罰」とは、「愛」とは何を指し、そして曲のタイトルが「時間」であるということはどういうことなのか、これはもう想像するしかない。しかし逆に、だからこそ様々なイメージ、暗喩、解釈がそこから湧き出し、曲の世界が膨らんでゆくのだと思う。ボウイの面白い所はそんなところにあると思う。
歌詞の事でいえば、例えば先日購入した「デビッド・ボウイ詩集」で読んだアルバムタイトル曲「スティション・トゥ・スティション」の歌詞が、思いもよらない内容だったことにぶっ飛んだ。この曲の歌詞の中には実はカバラ思想と(ケテルからマルクトへ、という一節があり、さらにCDのスリーブでは確かに生命の木を描くボウイの姿が!)、ニーチェ哲学への傾倒("It's too late"はニーチェの著作「善悪の彼岸」のキーワード)、さらにタイトルの意味するのは単純に鉄道の駅ではなく、キリストがゴルゴダの丘へ至る14の受難地点を示す教会用語"Stations Of Cross"であることまであからさまになっており、初めて耳にして数十年経つ曲の真相が今頃わかる、というのも何か奇妙な気がするものである。
この「スティション・トゥ・スティション」自体は、「アラディン・セイン」から「ヤング・アメリカン」まで、限りなく新天地アメリカへ憧憬し続けたボウイの、アメリカとの決別と、そして自分がどうしようもなくヨーロッパ人=”痩せた蒼白い公爵”であるという自覚と諦めを表現した作品なんだろうと思う。なにしろ演奏のタイトさと緊張感が凄まじい。そしてこの後ボウイはヨーロッパへと渡り、その頃白人西欧世界で最も緊迫したゼロ・ポイント、ベルリンの壁の側のスタジオで、問題作「ロウ」「ヒーローズ」を製作するのである。
うぎゃああ!長くなりそうだ!あとは後日!

Diamond Dogs

Diamond Dogs

STATION TO STATION

STATION TO STATION

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust (EMI) [ENHANCED CD]

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust (EMI) [ENHANCED CD]

Aladdin Sane

Aladdin Sane

Young Americans [ENHANCED CD]

Young Americans [ENHANCED CD]