ミレニアム ファースト・シーズン DVD BOX SET

というわけで。買っちゃったんだよ。ボックスセット。《ミレニアム》、DVD7枚セット。
《ミレニアム》。《X−ファイル》でU.S.TVドラマ界の寵児となった製作者クリス・カーターの新たな試みだった。《X−ファイル》がUFOやモンスターや超能力など、かつての有名TVシリーズ《トワイライトゾーン》を彷彿とさせるB級SF路線だったのに比べ、《ミレニアム》はシリアルキラーサイコパスを扱った猟奇犯罪物である。映画《セブン》なんかと感触が近い。
いや、それにしてもオレ《X‐ファイル》って大好きだったのよ。シーズン1からシーズン9まであったのかな。それぞれ20話ずつとして180話あまり、殆ど全部見てます。でも何故かシーズン9の終章は最後まで見てない。シリーズ後半、主演だったディビッド・ドゥカブニーが降りちゃったんで、雰囲気が変わっちゃって、なんか馴染めなくてね。それでも全話通して、画期的なTVドラマシリーズだったんじゃないですか。なにしろ1話100万ドルの制作費だったって言うし、下手な映画見るより見応えのあるエピソードとかかなりありましたよ。UFO話は引っ張りすぎて途中で訳判らなくなってますが、従来のSFホラー路線とも違う「奇妙な味」ともいえる作品もたまにあり、これがまた美味しいんだわ…。(特に、同じ時間を繰り返す「時間のしゃっくり」の中に入ってしまった話とか面白かったなー)スカリーとモルダーの密やかなラブロマンス物、というソープオペラチックな見方も出来たし、そういう俗っぽい所もスパイスとして十分面白かった。
さてミレニアム。1990年代、《新たなる千年王国》21世紀を前にした世紀末の暗く遣り切れない犯罪をテーマにし、人間心理の暗部を描いた犯罪ドラマだ。このドラマが他の犯罪物と一線を画していたのは、その《世紀末》というキーワードに代表されるヨーロッパ的白人キリスト教史観、そして、主人公の《遺物に残されたそれに係わった人間の思考・情景を見ることができる》という特殊能力である。最近日本でもTVで話題になった透視能力捜査官なのだ。しかしその能力も断片的な情景を見せるだけで、決して事件の全てを詳らかにするわけではない。そしてその断片的に見える犯罪の情景、あたかも怪物や魔人へと化身したかのような犯罪者の歪んだ素顔と心象が、見るものに恐怖を与える。そして、このような能力を使って解き明かした事件の真相は、やはり救い様がない。
単なる犯罪だけを描いているわけではない。この特殊な能力を持つ捜査官をリクルートし、警察の補佐官として派遣した組織「ミレニアム」の真相が謎に満ちているのである。この組織が実は単に犯罪捜査だけを目的にしているわけではなく、ある壮大な計画をその裏側に隠し持っている事がストーリーを追うごとに少しづつ明らかになっていく。これは《X‐ファイル》と通じる《陰謀史観》を垣間見せ、物語に深みを与えている。それは例えばテンプル騎士団の謎のメッセージに迫ったウンベルト・エーコの小説『フーコーの振り子』を思わせる、中世、錬金術の時代のオ・カルト、即ち隠秘学の超自然と魔法の匂いを物語に醸し出しているのだ。だからこそこの物語にはキリスト教のみならずユダヤ教の秘儀、カバラ数秘術、生命の木などの神秘学の引用が頻繁に為され、そしてそれをキーワードにした猟奇犯罪が行われたりするのである。
そしてこの謎の組織「ミレニアム」のシンボル・マークはウロボロスの蛇、即ち自らの尻尾を飲み込んでいる蛇の図が使われている。*1キリスト教異端派グノーシス派のシンボルでもあったこの意匠は、正統なるキリスト教史観に支配され繁栄した20世紀ヨーロッパ白人社会の、その裏側にあった異端の存在が、世紀末を越えて迎える千年紀に新たな支配者となってこの世界に降臨する、という意味なのかもしれない。
そして配役は主人公フランク・ブラックにあのランス・《エイリアン・シリーズ》・ヘンリクセン。彼の知性と陰鬱さを湛えた憂いに満ちた表情が堪らなく良い。彼の表情は《知性は陰鬱へと変遷する》と説明してるかのようだ。これがまた、ヨーロッパ的知性の終焉を感じさせて面白い。
X-ファイルとミレニアムを見て思う事は、病院のシーンと死体置き場のシーンが殆ど必ずあることだね。TVの中だけのことだと思うけど、アメリカの病院ってカッコいいんだね。日本の病院って嫌だね。病院のくせになんか小汚い感じがするのは、不潔と言う意味ではなく当然だが病んだ雰囲気が濃厚だからだろうね。それとこれだけ死体置き場と死体解剖シーンの多い番組も凄いよね。あと、両者の違いを一つ言うなら主人公のファッションか。X-ファイルのモルダーとスカリーがNY風のシンプルでミニマルなダークスーツなのに比べ、ミレニアムのフランクはコットン生地のワークウェアばかり着ているんだね。で、これが、あんまり似合ってないんだよ。
そして、新世紀を迎えた今、この地球全体を覆う巨大なパラダイム・シフトはまだ始まったばかりだ。まだまだ《ミレニアム》の呪縛は終わってはいないのである。
ちなみに、《ミレニアム》、シーズン3まであります。…買うよ。買うってば。

*1:古代の象徴の一つで、己の尾を噛んで環となった蛇を図案化したもの。世界創造が全であり一であるといった思想を表し、グノーシス派などが用いた。他にも終わりが始まりになる円運動、永劫回帰や陰陽など反対物の一致など、意味するものは広い。今日の無限大の記号(∞)のモデルとなった。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%AD%E3%82%B9