Mr.インクレディブル

とても面白かったです。「ハウル」「AVP」と見ましたがこの「Mr.インクレディブル」が一番素直に見れて楽しめて心に残る場面もあって、すっきりして映画館出れる映画だと思うなあ。
PIXERのアニメは「トイ・ストーリー」から追っかけ見てましたが(「ファインディング・ニモ」は未見)、史上初の劇場用フルCGアニメーションとしての「トイ・ストーリー」はやはり見るものを唸らせる完成度でしたね。「よく出来てるなあ、よく動いてるなあ」と本当に感心して観ていたものです。人形やオモチャが生きているように動く。ただこれだけのことに心底驚嘆しました。「モンスターズ・インク」はその完成形でしょうね。そしてこの頃から「ただCGが素晴らしいだけじゃなく、物語としても一級のものを作りたい」という思いがあったんじゃないでしょうか。それまではストーリー的には絵本のように明快ではありますが、大人でも十分楽しめるとはいえ、やはり子供たちを観客の中心に据えた物語だったからです。
この「Mr.インクレディブル」はそういった意味では少し大人向けです。シーンによっては大人にしか判らない苦さが描かれていたりします。主人公のMr.インクレディブルはスーパーヒーローです。しかし彼や世界中のあらゆるスーパーヒーローはとある事件をきっかけにヒーローとしての活躍を法的に禁止されてしまうのです。そしてただの人間に成り下がった主人公は過去の栄光を愛しむだけの負け犬としてこの現実で苦々しく生き続ける羽目になってしまいます。
しかしこの「苦々しい現実」の描写が逆にとても生きています。子供たちには退屈なシーンだと思いますが、オレはその悲哀の有様にぐっと来ました。保険会社に勤めている主人公は会社の利益の為に出来るだけ保険を支払わないようにしなければならない責務に苦しんだり、犯罪を見かけても助けられない葛藤に悩みます。そしてそんなうらぶれた主人公を支えるのがやはり元スーパーレディで彼の妻となったインクレディブル夫人、旧姓イラスティガールです。
彼女も普通の人間、普通の家庭の妻として生きて行くことを余儀なくされていますが、彼女はそんな事に悩みません。彼女には育て守るべき子供たちが居て、彼らを健やかに育てる事が彼女の今最も大切な事だからです。現実を受け入れ、そして、現実と対峙しながら生きていくこと。彼女には母親の持つ強さ逞しさがあります。女の持つ現実主義がとても巧く表現されたキャラクターだと思いました。彼女の喋る言葉、表情、しぐさ、すべてに、「ああ、女って、母親って、こうなんだよなあ」と納得させられるようなリアリティを感じさせられたからです。この彼女が今回の演技賞NO.1でしょう。なにしろその健気さ、強さの中の弱さ、愛らしさ、十分女性を感じさせる性格に少しオレは惚れそうになりました。生き物のような動きをするCGから心を持っているかのようなCGへ、PIXERの技術はまたひとつステージを上がったんではないでしょうか。
さらに生き生きとした子供たちの挙動。いや、長女のバイオレットは内気で長い黒髪が少しゴスっぽい少女です。しかしそんな彼女にさえ「こんな子っているよなあ」と思わせる人間臭さ、弱さ、を感じることが出来ます。そうして子供たちやMr.インクレディブル夫婦が食卓でああでもないこうでもないと揉めてみたり喧嘩してみたりしているシーンの楽しさはこれがCGだということを忘れさせてしまうような生命感と現実味に溢れています。
後半はお約束通りヒーローたちの大活躍ですが、ここでも描かれるのは家族の結束と家族愛です。家族それぞれの特殊能力を生かし補い合って戦う様は拍手喝采、オレなんかはその助け合い守りあう姿に少しホロリと来てしまった位です。ここに保守化したアメリカの内実を見ても良いんでしょうが、ここは日本だしオレは日本人なので素直に「家族って良いなあ」と思いました。そして考えてみればPIXER初めての現実的な戦闘シーンもここで描かれます。(バズ・ライトイヤーの戦闘はお話としての戦闘だったからね)敵の秘密基地の大げさな施設とそのテクノロジーも、これまでのPIXER映画に比べるとより洗練されていて007に出てくる悪役の秘密基地程度に未来的で楽しいです。
もう一度夢を取り戻すお話であり、家族の絆についての物語であり、子供の成長を描く物語ということもできるでしょう。やっぱり女ってツエエなあ!という映画でもあります。(で、男ってやっぱりナイーブなんだなあとも思い知らせてもくれます。)子供向けではなく、家族みんなで見ると楽しいかも。勿論オレのようなおっさんが一人で見ても楽しめます。「2」の製作を期待しています。

PIXERホームページ : http://www.pixar.com/jp/index.html
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