年賀状

今日会社から帰ると遅い年賀状が届いていた。
誰だろうと宛名を見ると、数年前から音信不通になっていた、昔とても好きだった女性からだった。
カラーでプリントされた赤ん坊の写真。「私もとうとうお母さんになってしまいました。」
彼女の新しい姓は以前から知っていた、彼女が付き合っていた男性のものだった。会わない時は半年も会わないほっぽらかしの彼氏、といつも笑っていたけど、やっと結婚してくれたのか。オレは彼氏のいる事は最初から知っていたけど、それでも、話せば話すほど心が軽くなっていくような彼女の清流のような性格にどこまでも惹かれていた。彼女も、オレが彼女に惹かれていることを知っていたのだと思う。でも、「でも人生にはどうにも出来ない事ってあるのよ」と笑顔で彼女は言った。そしてそんな会話など存在しなかったかのように、またオレとの他愛のない話を始めるのだった。
彼女には一度叱られた事がある。仕事に追い詰められて気分が参っていたオレはいつも愚痴っぽいメールを彼女に送っていたが、そんな愚痴にも親身に応えてくれていた。ただ、自分の境遇に自己憐憫めいた言い訳をした時、彼女は人が変わったように怒った。「だけどあなたは何も努力してないでしょ?」と。みんなバレていた。ただ辛い辛いと駄々を捏ねていた事が。恥ずかしかった。でも、後から気付いたけど、そんな風に怒るほどオレの事を考えてくれていた彼女の気持ちが嬉しかった。今でも、何か行き詰ると、オレはあの時の彼女の言葉を思い出す。そして、もうすこし頑張ってみよう、と思う。
そうして、結局付き合ったりする事はできなかったけど、彼女の言葉は今でもオレの中でなにか忘れ形見のように生きていたりする。
体を悪くして会社を辞めて、何年も実家に篭るような生活をされていた。それでも結婚してきちんと出産まで出来て、ああ、それなら幸せなんじゃないか、よかったじゃないかと思う。
いろんなものは変わっていく。そして、善いものにしていきたいと願っているなら、物事は善くなっていくものなのかもしれない。そう願っているなら。
Mさん、いろんな意味で、本当に、おめでとうございます。