誘われる

29日は会社残務整理後忘年会だった。
いつも書いてるが、酒好きではあるが大人数の飲み会は苦手だ。そして酒飲むといつも乱れているような事を書いているが、本当は飲むほどに白ける、という妙な酔い方をする人間でもあるのだ。オレは実は素面の時のほうがバカなんであり、酔うとそのペルソナを捨てた醒めた自分が顔を出してしまうのかもしれない。
そんなこんなで退屈な忘年会も終わり、みんな忘年会の会場から出た後、2次会はどうすんのかなあ、って感じで店の前にたむろしてるんですよ。”退屈だ”とか言いながらいっしょにそこに佇んでいるオレもオレなんですが、結局そのまま帰っちゃうと完全な鬱状態になっちゃうの知ってるんですよ。
あちこちにグループが出来てそれぞれカラオケだなんだに行くみたいだった。今日はもういっか、かえるべか、と思ってたら、「ふもさん一緒に飲みに行きませんか」、と誘いの声。会社の女子のKちゃん。彼女は例の「クリスマス争奪ロシアンルーレット」でただ一人「クリスマス後ならいい」と答えちゃったコだった。
最初どっかのグループと合流するのかなあ、と思い、ああ、飲み直すか、とOKしたのだが、…どうもそうじゃなく…オレ、彼女に逆ナンされたらしいのである。…びっくりっス。こんなオッサンでいいのか?「一回入ってみたかったお店があって。一人で行くよりみんなで行こうと思ってたんだけど、他にも誘いたかったけどふもさんぐらいしか空いてなさそうで」そうっすか。はあ。しかしうら若い女子に招待されるのは悪い気がしない。
二人で夕方の横浜の街を歩く。場所を失念したらしく暫く迷って、彼女がお目当てだったと言う店に入る。ワインバーだった。彼女ぐらいの若い女の子が憧れそうな小奇麗な内装の小さな店。オレのようなしょぼくれたオッサンはまず近寄る事の無いような店ではあったが、酒は酒だ、構いはしない。
彼女、Kちゃんは凛々しい目元の女の子で、可愛いと言うよりは少年のようなきりっとした顔つきをしている。よくレオナルド・ディカプリオ似だな、とからかって彼女から顰蹙を買っている。でも、TVや雑誌に出てくるような流行の顔じゃないにしても、ストレートでいい顔だと思う。彼女自身も屈託の無いストレートな性格の子だ。
「ふもさん、今年はどんな年でした?」などと訊かれる。まあいろいろ変化はあったけど、総体的に見るならいい年だったんじゃないか。彼女にも同じ質問をする。そして、彼女の生活ぶりとか夢とかの話をする。21歳の女の子なら誰でも持ってそうな希望とか不安。若いのって羨ましいな、となんとなく思う。オレは語れるほどの夢などこれっぽっちも持っていない。日々はルーティンワーク、毎日は同じ顔。「たいした事無い人生だよ」と言うと、そんなことはない、ふもさんっていろんな事を知っていて素晴らしいと思う、と言われる。知ってるだけだ。そして、知ってる事になんか意味はない。ネットを検索すれば、百億の知識が目の前に現れると言うのに、オレの知ってる事なんてカスみたいなもんだ。
でもオレはこのぐらいの若い奴でも同じ目線で話す人間なので、そういうところが彼女や他の連中には取っ付きやすいのかもしれない。オレは体育会系の上下関係に生きた事はないし、そもそも、物の見方の面白い若い奴の話を聞くのが大好きだった。逆に若い奴でも物の見方が紋切り型な奴には、かなり冷淡に接するほうだ。オレのような年寄りに読まれてしまうような物の考え方でいいのかよ、と思ってしまうのだ。
何杯かのグラスワインとちょっとしたチーズ。ちょっと酔ってきたので、河岸を変えてコーヒーでも飲みに行かないか、と言ってみる。そして店を出て、彼女が場所を知ってると言うので少し先のスターバックスに入り、カプチーノを飲みながらまた話す。F1が好きで、とか言い始めるので面白いから聴く。オレは興味ないけど、F1好きの女の子っていうのが面白い。物凄く熱く語る。へーとか言いながら聴く。子供の頃3年ほど韓国に住んでいた、と言う。少し驚く。
自分の個性を持って生きたいけど、人から理解されないのも辛い、と彼女。大丈夫だよ、君はとっても素敵な女の子なんだから、悩む事なんて無いよ、と言ってあげる。どうも彼女は自分には魅力が無いと思い込んでいる。そうじゃないのに、ちょっとヘンな所もあるけど、話しているオレは十分楽しいのに。
10時ごろお開きにする。お正月は実家に帰るの?と訊くと、ちょっと帰って、それから関西のほうの友人の所を訪ねてみる、とのこと。オレは正月も毎日酒飲んでるだけだよ、といって笑われる。またいつかどっか飲みに行こう、と言って笑顔で快諾される。「ふもさんってなんでも喋れるお兄ちゃんみたい」う〜む、歳が20個も離れてるとそんなもんだろうな。また心の妹がもう一人増えるのかよ。まあいっか。でも、年末のこんな時期に、なんかいい思い出になったかもしれないな。