P・K・ディックとサンリオSF文庫

ネットで拾ったP・K・ディックの肖像。
カコイイ。
ディックは好きだったな。アル中だかヤク中だかで、(またはその両方で)3回だか4回結婚・離婚して、「現代SFの最高傑作」と謳われる作品の殆どは金に困って無理矢理書き飛ばした作品で、でも、にもかかわらず、もう死んで20年以上経つのに、オレの心の中のクソガキに、永遠に忘れられない別世界を見せてくれた人だ。
オレの尊敬する作家、その1。
「ユービック」「火星のタイムスリップ」(ガブラーがガブルをガビッシュするぞ!)「パーマーエルドリッチの三つの聖痕」「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。
ヴァリス」はピンとこなかったが、「聖なる侵入」は好きだった。
サンリオSF文庫で出ていたディックは全部買っていましたね。「暗闇のスキャナー」「流れよわが涙、と警官は言った」。ディックがロジャー・ゼラズニイと共作*1した事があるって知ってた?
そのなかの1冊、「あなたを合成します」はSFの形を取った異色の悲恋物語で、その残酷で報われない恋愛の有様に、かなり泣いた覚えがある。だって、ラスト、精神病院での別離が描かれるんですよ…。かなりきっつい物語でした。でも実はこの作品がサンリオのディックのなかでは一番好きだ。


そういえばサンリオSF文庫。「スター・ウォーズ」で世間がSFバブル*2に湧いていたあの頃、あのキティちゃんで有名なサンリオが海外翻訳SFの発刊に手を出したのです。訳文が最悪と評判は芳しくは無かったが、取りあえず何でも出す、という編集方針が凄かった。なにしろそれまで早川や創元が翻訳を手控えていた癖の強い作品を次々と世に送り出していた。ディックの諸作品はもとより、トマス・ディッシュJ・G・バラードスタニスワフ・レムフリッツ・ライバーらの長編を始め、トマス・ピンチョン、サキ、ウラジミール・ナボコフなどの現代異色作家、さらにウィリアム・バロウズまで文庫で出していた。当時は正統派な早川よりも、表紙といいラインナップといい、どことなくビザールなサンリオSF文庫を結構買っていたものです。
その中でも、オレなりに知る人が知るこの1冊、というのを挙げるなら、トム・リーミィでしょう。「サンディエゴ・ライトフット・スー」という短編ファンタジィでネビュラ賞を受賞した事もあるこの作家は、これからというときに若くして夭折します。先の短編を収めた短編集「サンディエゴ・ライトフット・スー」は、現代を舞台にしたダークな味わいの幻想小説集ですが、なにしろ表題作の素晴らしさと言ったら、多分この短編を読んだ全ての読者に永遠にこの作者の名前を覚えさせるほどでしょう。現代のアメリカ都市を舞台にした、美しい少年に恋をした魔法使いの女の物語。アメリカ西海岸の風光明媚な風景とそこに住むカジュアルな人々、そして中年に差し掛かった女のいじらしい恋心。全てが甘くさわやかに語られるこの物語はしかし、あまりにも悲痛で悲劇的な結末を迎えるのです。もうトラウマになりそうなぐらい切ない物語です!現在廃刊に付、入手困難!さあみんな古本屋を探せ!!

参考:サンリオSF文庫の部屋 : http://www.asahi-net.or.jp/~ns6h-mr/text.html

*1:「怒りの神」

*2:SF月刊誌も、SFマガジンだけでなく、SF宝石とかSFアドベンチャーとかSF奇想天外とか3、4冊発行されていた。